最低賃金が初めて1千円を超えた。しかし、これでは、健康で文化的な最低限度の生活を送ることはできない。AERA 2023年10月9日号より。
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時給970円。収入は手取りで月10万円いくかいかないか。
「家族3人、ギリギリの生活です」
兵庫県に住む、小学6年生の息子と中学3年生の娘を育てるシングルマザー(46)は言う。
2年前、夫のモラハラが原因で離婚。近くの保育園で保育士資格のない「保育補助」として週4日働く。
家賃は月6万4千円。他にも光熱費に食費、日用品……。どんなに切り詰めても1カ月の生活費は20万円近くかかる。子どもの児童手当と児童扶養手当の他、長女に障害があり特別児童扶養手当を受給している。そうした手当が合わせて月10万円程度ある。それで収支がトントンだという。
「お金がなくても前向きに」と女性。だが、生活は厳しい。貯金は1万円あるかないか。フードバンクなどからも支援を受けているが、急な出費の時は、カードローンを利用することもある。
これから子どもたちにお金がかかる。息子は野球をしていて、中学に入っても続けさせてあげたい。収入を上げるにはスキルアップが必要だ。いま女性は、保育士の資格を取るため国家試験に挑戦している。年内には取得し、保育士として働きたいという。
「保育士資格があれば、時給1300円ぐらいはもらえます。そうすれば、将来にも備えていくことができると思います」(女性)
この女性を支援する一般社団法人「ひとり親支援協会(エスクル)」代表の今井智洋さんは、ひとり親世帯が置かれた状況をこう話す。
「ひとり親はどうしても仕事を休みがちになるため、近くに頼れる人がいないと正社員としてなかなか雇ってもらえません。正社員でも肩を叩かれ非正規になり、最低賃金が下がって生活が困窮することが少なくありません」
企業が従業員に支払う最低賃金(時給)。都道府県ごとに定められ、毎年改定される。そんな、働く人の生活を守る大切な安全網が今年度、全国平均で1004円と、政府が目標とする「1千円」を初めて超えた。引き上げ額は物価高を考慮し43円、と過去最高になった。引き上げは10月1日以降、順次実施される。