他方、米国では、政府や議会で第二のアフガニスタンにならないためにはどうすべきか、水面下で議論されていると思います。ゼレンスキー、バイデン両大統領の会談で長距離ミサイルの供与が合意されたという報道がありますが、米国はテコ入れと事実上の撤退の両睨みでウクライナ支援を「当分の間」続けていきそうです。
非は明らかにロシアにあるにしても、戦略的な成果や目標が明確に定まらないまま、「あるべき」論や希望的観測だけで大量殺戮が続けば、ウクライナ国家そのものの解体になりかねず、取り返しがつきません。
第1次世界大戦の軍事的な勝利の後に何が訪れたのか。ジャーナリストのバーバラ・W・タックマンの名著『八月の砲声』の最後は次の言葉で締めくくられていますが、これはウクライナでの戦争にも当てはまるのではないでしょうか。「ついに戦争が終わったとき、ひとびとの希望とはうらはらの種々が生じた。そのなかに、他のすべてのものを支配しかつ超絶したものがあった──幻滅である」
◎姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2023年10月9日号