姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 ウクライナ産穀物の輸入一時禁止をめぐり、ポーランドがウクライナへの武器供与停止に言及するなど両国の対立が深まっています。ウクライナの隣国で難民支援や武器援助、さらに兵站機能もかねていたポーランドの方向転換は大きな変化です。NATOあるいはEU諸国に連鎖反応を及ぼす可能性もありそうです。

 国連総会でのゼレンスキー大統領の演説も以前のようなスタンディングオベーションは起こりませんでした。これらは支援疲れだけではなく、戦争が長期的な消耗戦になることで、その影響が局所的な地域に限定されず、世界的に波及しつつあることの表れではないでしょうか。

 それと連動して欧州を揺るがしているのは、難民の大きなウェーブが起きていることです。この間、イタリアの島に約1万人規模のアフリカ難民が押し寄せました。いまアフリカは、クーデターや内戦、紛争、気候変動、それに加えロシアやウクライナからの穀物が滞り、大きな問題を抱えています。これは、2015年に欧州難民危機と呼ばれた大規模流入の再来ではないでしょうか。

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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