運動会屋/運動会屋CUOの米司隆明さん。この衣装に着替えて、運動会で司会を担当することもある。コロナ禍では参加者をネットでつないでオンラインで運動会を実施。家族で参加する人もいて、好評だったという(撮影/神田憲行)
この記事の写真をすべて見る

 会社でのパワハラ、病気による顔面まひ。こうした自身のネガティブな体験をバネに、社会問題を解決しようと起業をした人たちがいる。彼らの強い思いが、同じ悩みを持つ当事者に寄り添う商品やサービスを生み出した。AERA 2023年10月2日号より。

【写真】ボッシュの入社式で行われた運動会の様子がこちら

*  *  *

 米司(よねじ)隆明さん(42)は16年前、社内運動会を提案・支援する団体を起こした。

 起業のきっかけは、自身が新卒で入社した会社でのパワハラだった。

「金融系の会社だったんですが、営業成績を壁に貼りだして、ボウズ(成績がゼロ)の社員は上司から『生きている価値無し』と罵声を浴びせられる。それが毎日で、同期がボロボロと辞めていく。会社も織り込み済みで、大量に採って大量に退社していく。使い捨て感がすごくあって、私も契約を初めて取れたのをきっかけに辞めました」

全員の貢献性も参加性も、満たされるのが運動会

 転職したのはIT企業。罵声は飛ばないが一日中パソコンとにらめっこして、誰とも口を聞かない日々が耐えられなかった。

「ちょうど引きこもりが社会問題化した時期とも重なって、会社と個人って何だろうと考え始めて。みんなこんなバラバラでいいのかって。お互いが共感して尊重できる仕組みはないのか」

 思い出したのは、学生時代に熱中した野球部での体験だった。ひとつの目標にみんなで力を合わせる。

「社会人スポーツ部もありますが、それだとプレーをする人と応援する人に分かれて、みんなが自分事化できない。全員の貢献性も参加性も満たされるスポーツはなにかと考えていたら、運動会に辿(たど)り着きました」

 さっそく出身中学を訪れて、いまどきの運動会についてヒアリング。07年にNPO法人「ジャパンスポーツコミュニケーションズ」を立ち上げた。株式会社にしなかったのは、「運動会が社会課題を解決する」という問題意識が先にあったからだ。

 当初は仕事がなく、米司さんがアルバイトをしながら食いつなぐ時期もあったが、大阪の美容室チェーン店がお客第1号となり、そこから仕事が順調に広がった。18年に現在の社名の「株式会社運動会屋」を起業し、米司さんはCUO(Chief UNDOKAI Officer)に就任した。

次のページ