「仕事内容は運動会の全てです。場所の確保から競技用品の準備、当日の司会進行まで全部ご用意します」
依頼する企業の動機はさまざまだが、レクリエーションを兼ねた研修目的が多いそうだ。
「研修ですから、業務として平日に運動会を開催する企業が増えています。以前、東京のクラブグループからも依頼がありました。ホステスさんたちとの親睦を深めるために『家族同伴可』にするとペットを連れてきた人がいたり、にぎやかでした」
外資系自動車システムサプライヤーのボッシュでは、今年の入社式当日に、新入社員約110人による運動会を開催した。新入社員たち自らのアイデアだという。「Z世代×外資系」というと、社内運動会の文化からはもっとも遠く見えるが……。
「今年の新入社員は、コロナ禍に学生生活を送り、同年代とのリアルなコミュニケーションが希薄で、他の年より、新入社員同士で会いたいという欲求は一層強かった印象です。当日は世代も国籍も違う社員同士で盛り上がりました」(同社担当者)
運動会屋はコロナ禍で経営が厳しかったが、現在はコロナ前の8割まで業績が回復してきたという。いま取り組んでいるのは海外展開だ。
「インドでは現地の学校や会社で30回くらい運動会をやりました。リレー競技で『人生で初めて走った』という人もいて、楽しみにしてくれていましたよ」
「悩んでいたのは自分ひとりじゃなかった」
唇からなめらかにすっと抜けるスプーン。さじの部分を薄く、平らに仕上げてあるのがポイントだ。「猫舌堂」設立者の柴田敦巨(あつこ)さん(48)が仲間らと作ったこのスプーンやフォークが食事に困難を抱えていた人々の食卓に彩りをもたらした。
14年、柴田さんの左耳の下に10万人に6人という希少性のがんが見つかった。10時間におよぶ大手術ののち経過観察になったが、顔の左半分にまひが残った。
「口が大きく開かない、噛(か)みにくい、飲み込みにくい。それから食事をすることが難しくなりました」
なにより柴田さんが心を痛めたのは、
「食べこぼしや口の周りが汚れることが気になって、友人たちと一緒に食事ができなくなったことでした」
自然と外食から足が遠のいた。やがて同様の病を体験した仲間たちと出会う。仲間たちとの何げない会話から、食事の困難さを抱えているのが自分ひとりだけではないことを知った。