猫舌堂 猫舌堂設立者の柴田敦巨さん(右)と仲間の荒井里奈さん。がんサバイバーだった荒井さんは22年1月に亡くなった。二人の物語は今も同社HPにアップされている(写真:猫舌堂提供)

「これは自分ひとりの問題ではなく、社会問題なのだ」

 仲間のひとり、荒井里奈さん(22年1月に他界)たちとともに、自分たちでも食べやすくなるカトラリーを作れないか考えるようになる。アイデアが固まると、関西電力病院で看護師をしていた柴田さんは、関西電力の社内ベンチャー制度を利用し、20年、舌堂を設立。オリジナルのカトラリーの開発・販売をはじめた。実際に猫舌堂のスプーンやフォークを持つと、まず道具としての美しさに目を奪われる。

「食べやすさだけでなく、デザインにもこだわり、世界的なブランドである新潟県燕市の職人さんに製作を依頼しました。『嚥下(えんげ)』という言葉には『燕』という字も入っています」

スプーンとフォークがセットになった「iisazy 揃」。フォークの先端は丸くなっていて口の中を傷つけないように配慮されている(写真:猫舌堂提供)

 スプーンとフォークのセットは累計約2万個売れた。購入客からは「悩んでいたのは自分ひとりじゃなかった」という感想が届いているという。

 誰でも自分のコンプレックスやネガティブな体験を直視するのはつらいことだ。だがそれができたからこそ、起業し、同じ体験をしている人々の共感を集めるのだろう。コンプレックスは強さにもなる。(フリーライター・神田憲行)

AERA 2023年10月2日号より抜粋

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