「ロバは自分が何をしても肯定も否定もせずに、ただずっとそばにいてくれる。それで何とかこの世をサバイブできる気がするんです。『なんもしない』サービスを提供するレンタルなんもしない人さんと似ているかもしれない」

 高田さんは「大きな耳に、愁いを帯びた目。とても食いしんぼうな生き物」にひかれていく。

「ロバが草を食べているのを見ているだけで気分が落ち着いてきます。人間の心理として、おいしそうに食べる姿を見るのが楽しいのかも。夜、寝ているときに近くでゴリゴリと音を立てて食べているのはうるさいですけど」

 ツイッターでつぶやくと、昔はロバで売り歩くパン屋があった、元気をもらっている、などのコメントが寄せられた。

「みんなが朝から晩まで働いている中で、自分はただ歩いているだけ。なんて非生産的なんだ、と思っているので、投稿を楽しみにしているというコメントをもらうと、いつも不思議な感じがしていました」

 高田さんは今、日本をロバと旅している。Xのフォロワーは10万人を超えた。Xは日々の断片的なつぶやきだが、この本では昨年の旅の全貌を一つの大きな物語として読むことができる。旅が進むにつれて高田さんのロバ愛は深まり、モロッコでスーコに海を見せてやろうとする終盤は圧巻。ずっと一緒に旅をしていたくなる一冊だ。

(ライター・仲宇佐ゆり)

AERA 2023年9月25日号

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