<ライブレポート>梶浦由記のパレードはこの先も続いていく――30周年ライブ東京公演を振り返る
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 梶浦由記のライブツアー【30th Anniversary Yuki Kajiura LIVE vol.#18 ~The PARADE goes on~】の日本公演が8月20日にNHK大阪ホールにて幕を閉じた。

 今年、See-Sawとしてメジャーデビューしてから30年という節目を迎えている梶浦の、その30周年を記念したライブが今回のツアーにあたる。本記事では、8月16日にLINE CUBE SHIBUYAで行われた東京公演2日目をレポートする。

 本ツアーの醍醐味は、今年4月にリリースした梶浦のソロ・プロジェクト、FictionJunctionのアルバム『PARADE』の収録曲が軸に展開されていることである。今回、あえてゲストボーカルを招くことはせずに、梶浦が“歌姫”と呼び、アルバム『PARADE』にも参加しているKAORI、KEIKO、YURIKO KAIDA、Joelle、rito、LINO LEIAの6人がボーカルを務めていることは、後述する12月開催の日本武道館での【30th Anniversary Yuki Kajiura LIVE vol.#19「Kaji Fes. 2023」】が控えていることを考慮すれば、また趣向の異なるライブとも言えるだろう。

 例えば、2曲目に披露された「夜光塗料」はアルバムではASCAがボーカルを務めているが、今回のライブではritoがその歌声を担っている。さユりへの提供曲「それは小さな光のような」(編曲は江口亮)は、本作『PARADE』でKEIKOをボーカルにして、今回のライブでも包み込むようなアレンジへと生まれ変わっている。そういった点では、アレンジはそのままに歌い手だけが変わるということはライブならではでもあり、6声バージョンとして披露された「蒼穹のファンファーレ」は、その最たる例である。

 「ことのほかやわらかい」に始まり、「Parade」で幕を閉じる本編を経て、アンコールラストは「蒼穹のファンファーレ」と、アルバム『PARADE』をセットリストの軸に置きながら、梶浦の30年の軌跡を辿るような珠玉の楽曲が散りばめられているのも特徴的だ。それはFictionJunction名義にとどまらず、See-Sawや梶浦由記としての楽曲まで。LINO LEIAがボーカルを取ったFictionJunction YUUKA「暁の車」に始まり、「優しい夜明け」「君がいた物語」(See-Saw)、「zodiacal sign」(梶浦由記)、「stone cold」(FictionJunction)という怒涛の流れは、待ってましたと言わんばかりの会場全体の空気とその期待に応えようとする梶浦率いるボーカル、ミュージシャンたちの間にグルーヴが生まれていくのを感じるほどだった。序盤のMCで梶浦が「ご自由にお好きなように音楽を楽しんで」と話している通りに、着席スタイルで楽曲の世界観に浸るのもそれはそれで良さがあるが、お馴染みの振り付けで会場全体に一体感が生まれる「zodiacal sign」は、【Yuki Kajiura LIVE】を象徴する画と言えるだろう。

 「stone cold」からMCを挟んで「moonlight melody」へと流れるパートで、梶浦は「ラララとかでもいいから歌ったり、踊ったりしてほしい」と会場に集まった観客に呼びかけていた。梶浦のライブでは誰がボーカル、コーラスという区別はなく全員がボーカルであり、さらにミュージシャンも「フロントバンドメンバーズ(頭文字を取って、FBM)」と呼び、例に挙げればメンバー紹介ではマニピュレーター(大平佳男)もしっかりとステージ袖から登場し、挨拶をする。これは梶浦の「ステージの上はみんなが主役」という思いが元になっており、彼女は会場に集まったファンに対しても「今日の主役はあなた」と伝えている。

 この日、梶浦は会場が同じ渋谷だったということで2008年に渋谷O-WESTで開催された1stライブを回顧しつつ、その時に集まった約500人も、この日LINE CUBE SHIBUYAに集まったファンも変わらず、たった一人のあなたであると語りかけていた。たくさんの出会いや縁が繋がって、梶浦由記の“パレード”は形作られている。11月に台北、香港、上海を巡る【The PARADE goes on】のアジアツアーを経て、12月にはAimerやASCAといったゲストアーティストを迎える日本武道館2デイズでの【Kaji Fes. 2023】が控えている。ストーリーの主役はあなた――梶浦の変わらぬ思いを乗せて、この先もパレードは続いていく。

Text by 渡辺彰浩