二葉が賞レースへの思いを強めたのは、米二の語った「若手噺家グランプリ」だった。初めての予選通過がうれしかったし、自信がついた。
「女も落語できるんやでって証明したかったし、賞をとったら一つ認めてもらえる。いいきっかけになりました」
前出の西井に、二葉の人気はどこから来ると思うかと尋ねた。少し考え、「怒りみたいなものがあるような気がします」と返ってきた。女に落語ができるのか、女の落語家だから聞かなくていい。そういうことを言われると、時おり二葉は西井に電話をかけてきた。会話から彼女が女性差別への関心と、道を開いてきた先輩女性落語家へのリスペクトを高めていることが伝わってきた。
「アホをやりたいと落語家になったのに、『女性落語家』という薄い膜の中に閉じ込められている。そんな感覚があるのかなと思いました」
二葉はこう語る。
「確かに怒りをパワーにするタイプだと思います。何で自分の思ってる落語ができないのとか、なんでこんなおもろい落語やってんのに認めてくれへんねんとか。『女流』って言葉もすごく嫌やったけど、そういうことも勝ってから言おうと思いました。勝っても勝たなくても言うべきことは言うたらええと思うけども、やっぱり説得力は違うし、それは勝ってからやなって」
賞をとるための戦略を、ある時からすごく考えるようになったと二葉。「私の研究によると」と照れたように言って、NHK新人落語大賞の「傾向と対策」を語ってくれた。
(1)お行儀の悪い感じは嫌い→酔っ払いネタはダメ(2)“正しい”ものが好き→夜這(よば)いなどのネタはペケ(3)長い話を上手にまとめるのは好き→20年、「佐々木裁き」で決勝進出、力及ばず(4)予選はNHKの人が相手→牧村史陽著『大阪ことば事典』に触れる(5)決勝はウケたもん勝ち→事典ははずし、言いたいことを言う。
二葉の戦略は、懸命さの表れでもある。
動楽亭は米朝一門の桂ざこばが席亭をする寄席(よせ)小屋だ。毎日6人の落語家が日替わりで出る昼席に、弟弟子の桂二豆(にまめ)が出るようになっても二葉には声がかからなかった。女性の先輩も出演したことがあったようだが、長く「男性のみ」になっていた。「もうええわって思てたんですけど、途中でええわちゃうなって思って」。出番はなくても動楽亭に通い、楽屋仕事を一生懸命やった。