岐阜市にある敬念寺での「第8回敬念寺落語会」。午前は檀家さん、午後は一般のお客さんに「金明竹」「真田小僧」「天狗さし」。抽選会もあって大盛り上がり、写真撮影やサインにも気さくに応じた(撮影/武藤奈緒美)

 ちなみに「NHK新人落語大賞」は何度か名前を変えているが、ルーツは72年。二葉は21年、天狗(てんぐ)をつかまえてすき焼き屋をしようと思いつくアホが活躍する噺「天狗さし」を演じ、大賞を受賞した。受賞後の記者会見の最後の方で「ジジイども、見たかっていう気持ちです」と言った。本人によれば「可愛い感じ」で言ったそうだが、ニューヨーク・タイムズにも取り上げられた。そこからは破竹の勢い。今年3月には「探偵!ナイトスクープ」(ABCテレビ)の探偵にも選ばれた。

大人の感覚に敏感な子ども 母は「アホやなー」とほめた

 さて、冒頭の落語会に戻る。演芸写真家・橘蓮二がプロデュースする「桂二葉チャレンジ!!」シリーズの4回目だった。22年10月にスタート、初回の相手は春風亭一之輔(しゅんぷうていいちのすけ)、次が春風亭昇太(しょうた)、柳家喬太郎(やなぎやきょうたろう)、そして鶴瓶で「最終章」。4回すべて満席でこの日、大入り袋も配られた。動員数は延べ3千人になる。

 二葉の武器は明るく高い声。自然で自在な声にのせ、得意ネタは「アホ、子ども、酔っ払い」。入門からしばらくアフロヘアにしていたのは、「女性落語家」と思われるより先に「アホっぽい」と思われたいからで、一門の集まりで対面した米朝に「はやってんのか?」と尋ねられたという伝説も持つ。その上「ジジイども、見たか」だから、根っから大胆な人物に違いない──。

 ところが二葉、大人の感覚に敏感で、話すのが苦手な子だったという。例えば保育園の卒園アルバムの「将来の夢」。「あるわけないやろ」と思ったが「ケーキ屋さん」が正解だとわかっていたからそう言った。ランドセルも黒がよかったが、赤を選んだ。その点、3歳下の弟は将来の夢を「忍者」と言い、茶色で横型のランドセルを選んだ。「男の子ってアホやから、余計なこと考えずに言ったり選んだり、えらいなって思ってました」

 二葉の両親が事実婚だということは、「ジジイども、見たか」と共に有名になった。二葉が弟に「男のくせに泣いてる」と言うと、「男も女も泣くやろー」と言った母。勉強が苦手で「N」と「M」の区別がつかない二葉に「Mは1本、多いねんで」と根気よく教えてくれた。勉強が得意だった弟の西井開(34)は臨床心理士になり、『「非モテ」からはじめる男性学』などの著書もある。

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