「ぽかぽか」の収録で通うフジテレビ。「もっと上手に話せるようになりたいけど、なかなか慣れません」(撮影/武藤奈緒美)

 噺ごと腑に落ちないものもある。たとえば「立ち切れ線香」。芸妓(げいこ)に入れ上げた大店の若旦那が仕置きとして蔵に閉じ込められ、来なくなった若旦那を待ち焦がれた芸妓が死んでしまうという噺。ツッコミどころ満載のようだが、今も演じる落語家は多い。米朝が語り、枝雀が舞台袖で涙したというエピソードもある。

 二葉は、「どの辺に心が動いたのか、聞いてみたいです。不思議やわ」と言いつつ、「ちょっと挑戦してみたくなるんです」と言う。「立ち切れ線香は上方落語屈指の人情話」、そう聞くと心が揺れる。こういう「古典」を、どう残していくのか難しい。それでも古典落語にこだわっている。

「古典がうんとうまい女の人って、あまりいないじゃないですか。そこへの欲があるんです。醍醐味(だいごみ)があります。たまらなくワクワクします」

 かつては朝まで飲んでいたという二葉だが、もう2年以上、飲んでいない。「なんかもう、飲もうって思わへんのです。酔っ払ってる暇がない。ずっと考えていて、なんかメラメラしてます」

 目下の悩みは忙しさだ。大阪より東京で落語の仕事が増えている。上方落語が大好きだし、盛り上げたいのに「本末転倒」だとジレンマを口にする。自転車操業になっている、ネタがたくさんあるわけではないから、「あかんなと思ってます。ほんまに地道に覚えなあかん」。

 二葉の自宅玄関には、米朝の写真が飾られている。だってスーパースターですから、と。たくさん話を復活させて、今につなげてくれた、各地で独演会をして、お客さんを育ててくれた、すごいことです、毎朝「ありがとうございますっ!」と言って家を出ます。そう息急き切ったように話す。

 二葉にこれからのことを聞くと、「5年、10年後はわからへんけど、90ぐらいの自分は」見えているという。点滴をしながら高座に上がり、最後まで滑稽な噺をして死んでいきたい、と。

「もっとうまくなりたいです。自分の言葉で、まっすぐに声が出る。そういう落語ができたらなって思います。伸び代が、えげつなくあります。それがわかってきたから、すごく楽しみです」

 高く明るい声だった。(文中敬称略)(文・矢部万紀子

AERA 2023年9月11日号

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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