熱中症対策に不可欠なエアコン。だが、気になるのは電気料金だ。
医療・健康・美容器の開発と販売を行う「フランス総合医療」(東京都港区)は、今年7月から新たな福利厚生として「臨時電気代手当」の支給を始めた。約300人の全従業員を対象に月3千円を支給している。社内で制度導入を提案したのは、社長の次男で取締役本部長の杉木勇士さん(37)だ。
元気で長く働くために
全国の店舗を巡回している杉木さんは「この夏は特に暑く、自宅でエアコンや扇風機を常に稼働させておく必要がある」「物価が高騰する中、電気代の負担が大変」という従業員の声を各地で聞いた。一方で年配の従業員ほど、「電気代節約のためエアコンの使用を控えている」という声も目立った。
「これまで売り上げ増に貢献した従業員には特別手当を支給してきましたが、一律に、しかも自宅で使う電気料金を補助する、というのは発想自体ありませんでした」と振り返る杉木さん。幹部会議では、父親の社長が渋る場面もあったが、こう押し切ったという。
「うちは健康器具を販売している会社ですから、従業員が職場で生き生きと働いてもらわないと困ります」
社員の半数は60歳以上。シングルマザーを含め、家庭を持つミドルシニアやシニア層の女性が多く在籍している。大半は商業施設内のショップで働く販売員だ。人材確保のためにも従業員の満足度を高めるのは最重要課題と杉木さんは強調する。
「家庭と仕事の充実が働くモチベーションになる従業員も多く、ずっと元気で長くうちで働いてもらうためにも、自宅でしっかりエアコンを使って健康を維持してください、という思いを込めて導入しました」
月3千円という支給額は「全従業員に支給できるギリギリのライン」(杉木さん)という。とはいえ、「電気料金の値上がり分や、猛暑で普段より長時間エアコンを稼働した分をこれで補ってもらえれば」(同)と考えている。社員にも好評で、同社は手当の支給を9月まで延長することを決めた。来シーズンも「赤字経営にならない限り続ける」(同)方針という。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2023年9月11日号より抜粋