呉美保(お・みぽ 右):1977年、三重県出身。「そこのみにて光輝く」(2014年)が米アカデミー賞の外国語映画賞部門の日本出品作品に選出。ほか代表作に「酒井家のしあわせ」(06年)、「きみはいい子」(15年)など/杏(あん):1986年、東京都出身。近作に映画「劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室」「キングダム 運命の炎」(2023年)など。3児の母。22年からフランスとの2拠点生活。YouTubeチャンネル「杏/anne TOKYO」も開設(撮影/篠塚ようこ)

新しい価値観持つとき

杏:年齢が上がれば、さらにそこに学びや遊びも必要になりますよね。それにやっぱり自分も集中できないし。

呉:そう。だから私は基本職場には連れてこずに、子どもにはベストな環境で待っていてもらって自分はベストな状況で仕事をする、とキッパリ分けています。結局、子どもにも私にもお互いストレスになると思うから。でも杏さんって本当にすごいと思う。音楽やって本読んで仕事して……いつ寝ているの?っていうくらい、隙間なくスケジュールを組み込んでいる。

杏:段取り好きなんです(笑)。

――男女平等もダイバーシティーも発展途上な日本。ジェンダーギャップ指数は146カ国中125位と過去最低を記録している。

杏:この間、日本で旅館を予約しようとしたら「子連れの宿泊は大人2人から」と予約ができなかったんです。けっこう初手で詰む、みたいな(笑)。これはもしかしたらまだ日本に色濃く残っている古い部分なのかなと思わされました。お人形でも「ファミリー」のセット売りは基本的に大人2人に子ども2人というのが日本のスタンダードなんですよね。フランスのアニメにはベビーシッターが来て夜にお母さんが出かけるみたいなシーンがあったりするんですが……。

呉:日本だと「え? なんでお母さんが子ども置いて夜出かけるの?」みたいになっちゃう人が多い。でもそういう無意識の刷り込みって自分自身にもあると思うんです。

杏:同感です。私は本でいうと、いまがまさに「章が変わる」タイミングだと感じています。コロナ禍で失ったものもたくさんありますが、リモートワークが可能になったり、不要なイベントが見直されたりと、さまざまな問題を見つめなおすきっかけになった。だからこそいま、変わらなきゃいけない。なぜか持っていた罪悪感や「こうするべき」という固定観念を見直して、新しい価値観を持つときなのかなと思っています。

呉:いつかこの作品を見たときに「うわっ、古!」「こんな時代もあったよね」と思えるような社会になっていればいいなと願っています。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2023年9月4日号より抜粋

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