連絡せずに「直」で
銭湯には事前に連絡せずに訪れ、撮影をお願いする。というのも以前、失敗した経験があるそうで、「支えられて今」の取材で吉野杉の割り箸づくりを撮影したときのエピソードを語った。
「この日に行ってもいいですか、とお願いして訪れたんですよ。そうしたら、奥さまがばっちり化粧して、髪と服をバリバリ決めて。ほんま申しわけないくらいに。でも、やっぱり普段の姿がいいじゃないですか。ですから、よほどのことがないかぎり、連絡せずに『直』で行きます」
なので、「(現地に)行って、そのときの勝負」となる。
「まず、番台の人にあいさつをします。それで『かまへん』と、言われたらいいんですが、『あかん』、言われたらやめます。こちらは勝手に押しかけているので、撮影できないのは仕方ない。でも、『あかん』と言われながら牛乳をくれたりする」
銭湯から撮影の了承が得られれば、銭湯の入り口で待って客に声をかける。撮影がかなうかは客次第だ。
「『撮影は嫌や』言われたら、それで終わりです」
京都の観光地にある「船岡温泉」など、同じ場所で何枚も撮れることがある一方、「1枚しか撮れなかったところもある。まあ、そういうところが多いかな。湯上がりで出てこられて、いきなり撮影をお願いして、よう受けていただいたな、と思います」
撮影の際には背景の銭湯と人の大きさのバランスに気を配る。
「テーマが『湯上がり』ですから、銭湯の入り口を画面に入れて、お客さんには、『お顔は小っちゃく写ります』と声をかけて撮影する。なるべく写真によって人の大きさが変化しないような位置に立つんですが、どうしてもこれ以上、下がられへんいう場所がある。でも、それは仕方ない」
「ああ、しんど」中断も
撮影時間の制約もある。特に厳しいのは冬の撮影だという。日没が早いので、短い時間しか撮影できない。
「できるだけ日の高い時間にお客さんと銭湯の姿をいっしょに撮りたい、と思っているんですけれど、営業時間が午後3時からだったりすると、気持ちが急いでしまう。お風呂に入っていたら、私は何しに来たんや、と思ってしまって」
とはいっても、日の光のあるうちに客が出てくるかは運次第だ。
「お客さんが出てこないのは仕方ない。なので、夜、ストロボで撮影した写真も何枚かあります。冬、撮影した子どもさんの写真を見ると、肩をすくめて凍えていました。そういう変化があるから面白いんですけれど、撮影には何年もかかりましたね」