厳しい寒のもどりに震えながら都心を歩けば、それでも歩道脇のアスファルトから伸びる緑濃い草を見つけて足がとまる。桜に負けじと春を告げるその植物の名が何だったのか考えても思いだせず、植物好きの私はちょっと悔しい気分をひきずってまた歩きだす。
塚谷裕一『スキマの植物の世界』は、昨年刊行されて話題となった『スキマの植物図鑑』の続編だ。都会の隙間で見つけられる草木の名を知るためなら前作の方が便利かもしれないが、新作では隙間と植物の関係をより深く理解できるよう、海辺や高山の隙間にも注目。イソマツ、ミヤマハタザオなど、さすがに都会では目にできない「スキマの植物」もカラー写真とともに紹介されている。
こうして100種類以上もの隙間で育つ植物を知ると、〈植物はスキマに生えるものである〉という塚谷の説に納得する。以前、アスファルトの道路脇で成長した大根が「ど根性ダイコン」として話題になったが、あれは誤解だったらしい。隙間に生える植物は、〈孤独に悩んだり、住まいの狭さを嘆いたりなどはしていない。むしろ呑気に、自らの生活の糧であるところの太陽の光を憂いなく浴び、この世の自由を満喫している〉と塚谷は書いている。光合成のために常に光を求める競争を強いられている植物にとって、隙間はライバルがいない「楽園」なのだ。
街路樹や公園の木々といった計画内の植物でなくとも、人が都市を造りあげていく中で計画外の植物たちは隙間に生える。そうして植物の種の多様性が大きくなれば、予想しなかった蝶などの昆虫が引き寄せられ、食物連鎖によって鳥たちも集う。かくして、人が管理できない植物、虫、鳥たちが都市に生き、私たちはそこで「自然」を体験する。
〈スキマこそは、都市に真の自然を誘い込むニッチなのである〉
スキマ植物が垣間見せる世界は奥深い。私は今後、散歩の際にはこの本を携帯する。
※週刊朝日 2015年4月24日号
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