たまに、主婦の悩み相談にも応じるというやさしいBear Tailの黒﨑賢一氏
たまに、主婦の悩み相談にも応じるというやさしいBear Tailの黒﨑賢一氏

 以前、Sansan株式会社が提供する名刺管理アプリ「Eight(エイト)」を紹介した。名刺画像を送信すればデータ化してくれるサービスで、これは「人海戦術型サービス」と呼ばれている。だが、類似のサービスはまだまだある。その一つが家計簿アプリだ。

 家計簿といえば「付ける」もの。つまり、自分で入力するものという固定観念を破り、入力を人任せにする、ある意味で究極のサービスだと言える。レシートをスマホのカメラで撮影し、それを送ると家計簿にしてくれる。なんとも便利なアプリだ。

 今回は、数ある家計簿アプリの中でもデータ入力の正確性が日本一で、かつ簡単にデータ化してくれる「Dr. Wallet」の提供会社、Bear Tail代表取締役CEO黒﨑賢一氏に話を聞くことができた。

 このサービス最大の特徴である「入力は人任せ」は、どのような発想から生まれたのだろうか?

「自分で家計簿を付けていたのですが、入力が一番面倒でした。それが嫌でやめてしまう人がいるとも聞きました。ならば、と思ってOCR(手書き文字や印刷された文字を読みとり、テキストデータに変換する技術)を使ってみたのですが、精度が低い。だったら、人がやればいいじゃないかと思ったのです」

 とはいえ、細かなお金の動きを他人に知られるのは困る。そこで同社では、送られてきたレシート画像を分割し、個人を特定できない状態にしているという。では、一体どんな人が、何人くらいで入力しているのだろうか。

「いま弊社のサービスの登録ユーザーは約70万人ですが、入力をしてくれるスタッフは約1000人います。ほとんどが在宅の主婦ですね。家に居ながらにして、自分の好きな時間に入力の仕事をしてもらっています」

 日本全国の主婦が空いている時間に入力しているというのだ。もしかしたら、カフェで暇つぶしにスマホゲームをしているのかと思った隣の女性は、赤の他人の家計簿を入力しているのかもしれない。

「そんな暇つぶしで入力されたら、間違いもあるんじゃないの?」と思いたくなる。ところが、同社では同じレシートを複数のスタッフが入力、合致したものだけが合格として正式にデータに反映される仕組みになっている。万一、データに違いがあれば別のスタッフが入力を行い、合致するまで作業が続けられる。その結果、正確性は99.98%の精度を誇り、レシート画像を送信してから入力完了まで、平均して数時間を要する。

 黒﨑氏は「OCRの精度が低いから、人力入力を選んだ」というが、OCRの精度が飛躍的に高まったら人力での入力はやめてしまうのだろうか。

「そうなったら、入力はOCRにして、人には人がやるだけの価値がある仕事をしてもらうでしょう。ただ、現状では、1枚のレシートをOCRで読みとった場合、まったく間違いがない状態で読みとれるのはわずか20%です。これがほぼ100%と言えるレベルになるのは難しいでしょうね。OCRと人力の併用が現実的だと思います」

「Dr.Wallet」の現在のユーザー数は約70万人、黒﨑氏はこれを2年後には500万人にしたいと語る。そうなると入力するスタッフも1000人では間に合わない。1万人は必要だ。

「いつか、愛知県豊田市や茨城県日立市みたいな、“Dr.Wallet市”ができれば面白いなと思います。その町では、主婦は皆、レシートを入力しているんです(笑い)」

「Dr.Wallet」はレシートに限らず、銀行口座やsuicaのような交通系ICカード決済も自動的にデータを取りこむことが可能だ。そもそも家計簿は入力することが目的ではなく、その後の資産管理のためのもの。面倒な入力は「Dr.Wallet」に丸投げしてみるのも一つの手段だ。

 あなたの資産管理を、顔の見えない多数の主婦軍団が助けてくれていると考えればよいのかもしれない。

(ライター・里田実彦)