ようやく入試シーズンが終わった。今年は国内でのカンニングに関するニュースはなかったが、インドで常態化されているカンニングがニュースとして取り上げられた。家族でカンニングを手伝うというのだから驚きだ。
試験と切っても切れない関係にあるカンニング。一体、いつから行われているのだろうか。なんと、中国で最も権威と歴史がある役人登用試験“科挙”では、6世紀からカンニングの記録が残っている。
四書五経(文字にしてなんと20万字)を暗記する必要があったという超難関試験だっただけに、科挙の歴史はカンニングの歴史とも言えるくらいのものだ。ただ、当時のカンニングは、「小さな紙に答えを書きこんで持ちこむ」というきわめてシンプルなもの。しかし、いったん科挙に合格すれば一生は安泰、一族郎党までその影響が及んだというだけに、カンニングに対する処罰も厳しく、死刑が科せられることもあったという。まさに、一世一代の大勝負だ。
このカンニングペーパーの持ち込みという原始的な方法は長らく続き、世界中のあらゆる試験で用いられてきたという。日本でも、明治時代には正岡子規や夏目漱石、石川啄木といった文豪がカンニングしたことを自らのエッセーなどに書き残している。このように自ら告白できるうちはまだマシだ。
なかには事件となってしまうケースもある。1971年に大阪大学、大阪市立大学医学部の試験問題が流出し、カンニングが行われたのをはじめ、歯科医師国家試験や警察学校卒業試験、医学部実技試験問題など医師や警察官の資格試験でカンニングが行われている。
ここまで挙げた例は、答えを持ちこむというシンプルな例だ。一方で、その場で答えを導く方法もある。このケースだが、カンニングとデジタルデバイスは残念ながら非常に仲がいい。古くは小型電卓の登場で試験会場への持ち込み禁止が一般化した。そのほか、電卓機能付き腕時計や電子手帳など、あらたなデジタルデバイスが登場する度に試験会場への持ち込み禁止になるといういたちごっこが続いている。
そこに拍車をかけたのが、携帯電話とスマホの登場だ。試験中にネット上の匿名掲示板に問題を投稿し、掲示板上で回答が書きこまれるとそれを解答用紙に書き込むという手口さえ現れた。こうなると、事前に問題を予想することもない。スマホのチャット機能やSNSを使えば、外部と連携できるのだから、試験としては意味をなさなくなる。
この対策としては、スマホなどの持ち込み禁止があるが、超薄型のスマホを隠しもたれたら探しきれない可能性がある。カンニングペーパーの時代から、ものを隠す技術は健在なのだ。腕に包帯をまいて隠し持つというシンプルな手口さえ現役だ。いや、超小型の通信機能付きイヤホンを耳の中に隠されると見付けようもない。実際、中国では、米粒大のイヤホンがカンニングに大活躍しているという。
一方、カンニングの防止策はデジタルデバイスとどのように対応しているのだろうか。各種デジタルデバイスの持ち込み禁止は当然だが、根本的な解決策として「電波妨害」がある。問題は、日本で電波の妨害を実施する場合、実施者が陸上特殊無線技士の配置と無線局免許状を取得していなければならないということだ。
大学入試などでは、そういった人材を配置できなくはないが、一般の学内での試験ではそこまでは難しいだろう。こうなると、「不自然な動きを見付ける」という原点に立ちかえることだ。ベルギーの大学ではカンニング対策に無人飛行機「ドローン」が投入されたが、「音がうるさい」などと不評だったという。だが、すでに監視カメラを配置している試験会場はあるので、音の問題さえ解決すれば、ドローンをつかったカンニング防止策はもっと普及してもおかしくはない。
しかし、怖しいのは、デジタルデバイスの進歩は止まらないという点だ。今後ますます、薄型化や小型化は進む。ウェアラブル端末の普及も新たなカンニングの手口を生み出す可能性がある。映画の世界のように“体に内蔵されたデジタルデバイス”が出て来たら、そもそもカンニング対策できなくなる。いや、人間そっくりのアンドロイドができたら、代わりに受験してもらえばよいのだ。というよりも、そうなってきたら、「知識を問う試験」には意味がない。知識は調べればいいのだから。
一昔前、「替え玉受験」が話題になったことがある。変装して、受験票の写真を偽装して本来の受験者とは違う人間が試験を受けるという不正入試の手段だが、これまた科挙の時代から例がある。日本では、タレントのなべやかんが大学入試の替え玉受験が発覚し、話題となった。
もしかしたら、「知識を問う試験なんて、替え玉で十分。将来、そんなものに意味はなくなるのだから」と、なべやかんは予想していたのかもしれない。
(ライター・里田実彦)