ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載が、「今週のお務め」とリニューアルして始まりました。7回目のテーマは「『激変』した美輪明宏さんと藤澤五月さん」について。
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なんでも、美輪明宏御大が「痩せた」とニュースになっているようです。連日酷暑が続く夏の盛り。御年88歳にもなる後期高齢者の体形変異としては、ごく自然なことかと思いますが、やはりそこは万物の概念を超越してきた感のある美輪さん故に、近所の年寄りが痩せるのとは話が違うというのも理解できます。
それにしても、「ビジュアル激変」だの「容姿のギャップに心配の声」だのと、やたらとエキセントリックな見出しを付けようと必死の様子ですが、いかんせん相手はあらゆる常識を覆し続けてきた先駆者中の先駆者です。今さら「激変」「ギャップ」なんてワードを用いたところで、書いているほうがむなしくなるだけかと。
どこかの記事に、「美輪といえば、金色のロングヘアーに艶やかなメイクを施した中性的な風貌が有名」と書いてありました。自ら散る覚悟で立ち向かい、見事に玉砕した潔さすら感じる文章です。それっぽい言葉や表現を並べたところで、その限界値をはるかに上回っているのが美輪明宏という人間であり、現代のメディアでそれを言葉化できる国語力を備えている人は、ほとんどいないのかもしれません。
ただ、美輪さんの髪は「金色」ではなく「黄色」です。他人様のラッキーカラーをみだりに間違えたりするなど言語道断。かつて「黄色は金運をもたらす色だ」と知った美輪さんは、自身の髪を染めるだけでなく、家の中に黄色い布を吊るし、ピカチュウの人形を飾っていたほど、黄色への帰依が格別深いことぐらい、少し調べれば分かるはずです。
さらには、「艶やか」「中性的」という言葉。これらから漂う安易さと陳腐さは、私たちの日本語に対する思考停止の象徴とも言えます。御大に限らず、異形な人間が地上に姿を現した時、世間はこれ見よがしに「艶やか」という表現でお茶を濁しがちです。