[Twins I]
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[Twins I]
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[Twins II]
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 1982年2月頃、ジャコ・パストリアスは約6年在籍した「ウェザー・リポート」を円満退団する。この年はグループの活動は休止、個人の活動にあてることになっていた。ところがマネジメントが春のツアーを決める。前年に公演をキャンセルしたことで数件の訴訟を抱えていたザヴィヌルとショーターは新たな火種を恐れて応諾するほかなかった。個人活動中の残る3人が呑めるはずもない。12月に「ワード・オブ・マウス・ビッグ・バンド」を旗揚げ、ツアーをスタートさせていたジャコは退団を選び、「ステップス」のツアーで来日中だったアースキンが続いた。ボビー・トーマス(パーカッション)だけは人づてに解雇を知ったという。こうして、最後の「ウェザー・リポート」が編成される。

 退団前の様子は拙稿(http://com-post.jp/index.php?catid=7&subcatid=58)をご覧いただきたいが、ジャコの退団は潮時だったと言うべきだ。1980年夏に第2作『ワード・オブ・マウス』(Warner Bros.)にとりかかってからは個人プロジェクトに注力し、尻に帆を掛けた状態だったから渡りに船だったと見ていい。

 晴れて自由の身になったジャコ率いるビッグ・バンドは全米ツアーの余勢を駆って来日、8月31日から9月5日まで仙台、東京、福岡、広島、大阪、横浜の6都市を巡演した。推薦盤は東京、大阪、横浜で催された「オーレックス・ジャズ・フェスティヴァル」での演奏を収める。自ら選曲・編集にあたり、この年の暮れに『TWINS I』『TWINS II』として日本でのみ発売された。2枚からなるアルバムのタイトルは同じ9月にジャコが授かった男子の双子に由来し、二人に捧げられている。米欧では1983年暮れに2枚から抜粋・編集された『Invitation』が発売された。あとは【リリース情報】をご覧いただきたい。

 ジャコがこのビッグ・バンドで狙ったのは伝統と革新の融合だろう。それはユニークな編成とプログラムからも窺える。編成で注目すべきは頭数よりも中身だ。低音系のバス・トロンボーンにチューバにフレンチ・ホルン、打楽器系のパーカッションにスティール・ドラム! それにハーモニカ!が追加され、ジャコのベースギターを除いてキーボードやギターなど、単独でハーモニーを担える楽器は一掃されている。標準編成(4-5tp, 3-4tb, 5reed, 3-4rhythm)と重なるものを伝統、追加・一掃したものを革新と見ていいだろう。

 プログラムの半数をジャコのオリジナルが占める。《コンティニューム》《コンコレ・イ・トロンパ》は『ジャコ・パストリアスの肖像』(Epic)から、《リバティ・シティ》《スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット》は『ワード・オブ・マウス』から、《ソウル・イントロ》《レーザ》《ツインズ》はこれが初出だ。

 ジャズメンズ・オリジナルがそれに次ぎ、エリントンの《ソフィスティケイテッド・レディ》、コルトレーンの《ジャイアント・ステップス》、ショーターの《エレガント・ピープル》、ギル・エヴァンスの《イレヴン》が選ばれている。これらにスタンダードの《インヴィテイション》、ピー・ウィー・エリス(JBズのテナー)の《ザ・チキン》、トラディショナルの《アメリカ》、バスター・ブラウン(ブルース歌手)の《パックマン・ブルース》と、ユニークな一群が加えられた。ヴァラエティに富むを超え、ジャコの狙いと美意識が窺えるプログラムだ。

 コンサートと同様に、『ツインズⅠ』は《インヴィテイション》で幕開けする。哀感はそのままに疾走感に満ち、サスペンス・ドラマの追跡シーンにでも使えそうだ。ジャコのグルーヴィーなベースラインにゾクゾクする《ソウル・イントロ~ザ・チキン》、優雅にたゆたいナチュラルにスウィングする名曲《コンティニューム》、ジャズとR&B、伝統(ホーンズ)と斬新(ハーモニカ&スティール・ドラム)が見事に融け合う《リバティ・シティ》、胸キュンだけに終わらせず劇的な起伏に富む名曲・名演《スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット》と続けて、ジャコとトゥーツ・シールマンス(ハーモニカ)の心の通じ合ったデュオをフィーチャーした《ソフィスティケイテッド・レディ》で閉じる。

 『ツインズⅡ』はアメリカの第2の国歌《アメリカ、ザ・ビューティフル》に基づいたジャコのソロ・ピース《アメリカ》で幕開けする。イントネーションの美しさが際立つ。ジャコ、フレンチ・ホルン、パーカッションからなる異な編成で広遠な音絵巻を描きだす《コンコレ・イ・トロンパ》、疾風怒涛から史上の名演に違和感なくつなげる圧巻の名演《レーザ~ジャイアント・ステップス~レーザ》、演奏するジャコの歓びが伝わる愛奏曲《エレガント・ピープル》、入念にして壮大なオーケストレーションに感嘆しっぱなしの《ツインズ》、一転してジャコのブルース魂が弾けるご機嫌このうえない《パックマン・ブルース》と続けて、ビッグ・バンド革新の先達に敬意を表した《イレヴン》で閉じる。

 当時は「斬新だ!」「こんなものビッグ・バンドじゃねえ!」と褒貶半ばしたが、今の耳には決して際物ではないばかりか、真にクリエイティヴな証しで鮮度も失っていない。滞日中、ジャコは数々の奇行を残したが、生涯の絶頂に照らせば武勇伝とすべきだろう。本当の奇行とは才能をスリ減らし破滅型ジャズマンを地で行ったこのあとの振る舞いだ。推薦盤にはジャコが才能のありったけと心血を注ぎこんで追い求めた夢が結実している。ここではオリジナル盤に準拠した最新盤を紹介したが、それ以前の2枚組も入手可能だ。[次回4月6日(月)更新予定]

【収録曲】

『Twins I』Jaco Pastorius Big Band (Jp-Warner)
『Twins II』Jaco Pastorius Big Band (Jp-Warner)

『Twins I』1. Invitation* 2. Soul Intro. - The Chicken 3. Continuum 4. Liberty City 5. Three Views of a Secret 6. Sophisticated Lady
『Twins II』1. Amerika 2. Okonkole' Y Trompa 3. Reza - Giant Steps - Reza (reprise) 4. Elegant People 5. Twins 6. Pac-Man Blues (Fannie Mae) 7. Eleven

Recorded at Budokan, Tokyo, on September 1, 1982.
Recorded at Festival Hall, Osaka, on September 4, 1982.
Recorded at Yokohama Stadium, Yokohama, on September 5, 1982.

Word of Mouth Big Band: Jaco Pastorius (el-b, arr), Don Alias (per), Randy Brecker (tp), Peter Erskine (ds, tympani, gong), Bobby Mintzer (ts, ss, co-arr*), Othello Molineaux (steel drum), Special Guest: Toots Thielemans (hca).
Elmer Brown, Forrest Buchtel, Jon Faddis, Ron Tooley (tp), Wayne Andre (tb), David Bargeron (tb, tu), Peter Graves (btb, co-cond), Bill Reichenbach (btb), Mario Cruz (ts, ss, cl, afl), Randy Emerick (bs, cl, afl), Alex Foster (ts, as, ss, cl, picc), Paul McCandliss (ts, oboe, ehr), Peter Gordon, Brad Warnaar (frh).

【リリース情報】
1982 LP Twins I / Jaco Pastorius Big Band (Jp-Warner)
   LP Twins II / Jaco Pastorius Big Band (Jp-Warner)
1983 LP/CD Invitation / Jaco Pastorius (Warner)
   ※Twins I-5, Twins II-2, 4, 5を除く9曲を収録、Twinsより収録時間は短い
1999 2CD Twins I & II - Live in Japan 1982 / Jaco Pastorius Big Band (Jp-Warner)
2013 CD Twins I / Jaco Pastorius Big Band (Jp-Warner)
   CD Twins II / Jaco Pastorius Big Band (Jp-Warner)

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。

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