大西氏によると、路上生活者の数が減少した一つの要因は、自治体による取り組みの成果だ。巡回相談や生活保護制度のほか、民間団体の活動といった支援の輪が少しずつ広がっていると考えられる。
ただし、これはポジティブな見解であり、一方でネガティブな見方もできる。
「単純に、公園や駅、河川敷などで寝られる場所が激減しているとも言えます。特に都市部では夜間は施錠する公園も多く、また盛んに再開発が行われているので、結果的にホームレスの人たちがその場所に居られなくなった……という側面はかなり大きいでしょうね」
もう一つは、若者を中心とした新たな貧困層の広がりだ。東京都が2018年に発表したアンケート調査によると、住居不定でインターネットカフェや友人宅などを転々とする人は、都内で1日当たり約4000人に上るとみられる。
「住む場所や仕事を自分で探すため、ホームレス状態でもスマートフォンの所有は不可欠。ネットカフェのほか、SNSで知り合った人の家に泊めてもらうなど、事態はより多様化していると考えられます」
典型的な路上生活者が減る一方、若者のホームレスはますます可視化されづらくなっていると考えられる。身だしなみに気を使う若者はひと目で「貧困状態にある」とは判別しにくいため、支援のハードルも上がっているという。
■若者が声を上げづらい不寛容な社会
ネットカフェでの宿泊の相場は1泊1500~2000円。1カ月滞在した場合は約6万円かかる計算だが、その予算があれば安いアパートを探せなくもなさそうだ。しかし、貧困に陥った若者の場合、敷金・礼金を払えるほどの貯蓄がなかったり、人間関係・精神疾患などが原因で仕事を転々としたりしていることで入居審査や保証会社の審査に通らない人も。
「客観的に見たら生活が破綻しかけている、もしくは破綻している状況でも、月10万~15万円程度を稼いでいて、本人が『自分は頑張っている』と思っているとなかなか相談には来てくれません」
と大西氏は話す。