たぶん一番あり得るのは「酒に酔った勢いで〇〇」。私は酒に呑まれがちだからね。〇〇に何が入るかの程度により『再出発』の選択肢も決まってくるでしょうが「酔った上の喧嘩の末、止めに入ったおまわりさんに反抗して公務執行妨害で逮捕」……が私には一番可能性が高い気がします。これじゃ廃業にならないか。謹慎止まりかもしれませんね。ならばその謹慎中になにかやらかしますか。
「無免許で不正改造車を飲酒運転し、ながらスマホで野球賭博を楽しんでるところ、信号無視でお縄になって、検査してみたら薬物反応、助手席には10代の不倫相手」ぐらい重ねれば、落語家としての息の根は完全に絶たれるでしょうか。法の裁きを受けた後は謝罪会見、開かなきゃダメかな。有名人としては微妙なラインじゃない? オレくらいの半端さならやらなくてもいいんじゃないか。やってみて記者が誰も集まらなくてもシャクだし、まぁその頃はみんな忘れてると思うのでやらずに済ましましょうか。
娑婆に出た後の身辺整理、考えただけでもめんど臭い。家族にも愛想を尽かされるでしょう。家を売ったりして慰謝料やら養育費やら。弟子も他一門に預けなきゃいけないでしょう。「私も辞めて師匠とともに生きていきます」なんて弟子いないだろうし、ついて来られてもちょっとトゥーマッチ。しばらくは独りにしてくれ。私自身も師匠から破門され、方々でまた謝り倒して、そのやりとりに追われ、懐もすっからかんです。仮定の話なのに泣きたくなりますね。
私はどうしたらいいのでしょう。とりあえず、しばらくは休みますか。落ち着いたら自分を見つめ直すため、四国八十八ケ所、お遍路さんで回りますか? ちょっとベタ過ぎ? 果たして根性なしの私に出来るでしょうか。真夏と真冬は避けたいところ、やっぱり4月か10月がいいですね。陽気のいいときのほうが信心も楽しい。美味しいものも多そうだし。新緑と紅葉が綺麗でしょうね。その代わり電車や車に乗ったりはしませんよ。そのへんのプライドはあるつもりです。必ず徒歩で完遂してみせますよ。そして身も心も清められて『再出発』です。
さて、そのあと他の仕事が出来るかな……。出来ねえだろうな。手に職も何もないですし……。一応、真打にはなっているのでフリーの落語家としてはやっていけるみたいですけど、地に落ちた信頼を取り戻すのは無理だろな。そもそもそのとき、また落語家に返り咲きたいと思うかどうか……でもやっぱり落語はやり続けたいと思うだろうなぁ。そうなんですよ。まぁ私には落語しかないわけでね、うん。
……あら? 今、ネットで調べたらお遍路さんは毎日10時間休みなく歩いても50日はかかるそうな。は? 確実に膝が壊れます。ムリムリ。膝がぶっ壊れたら正座なんか出来ません。正座出来なかったら落語も厳しいでしょ。じゃあお遍路さんはなしだなあ。いや、ホントに残念です。ちょっとノリノリだったのに。お遍路さんも出来ないんじゃ他に禊のすべも分からないし、禊の必要がないように今まで通りに平穏に生きていくしかないですね。
ここまでちびちび呑みながら、ボンヤリ書き殴ってきました。そろそろ字数を数えようかと思うんですが、そうか、今まで1300字だったけどネットは無制限と言われてたんだった。無制限。もうなんか気が遠くなりますが、酒に酔った勢いの『再出発』の話はこのへんでおしまい。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!