世界の分断をより一層進めているウクライナ戦争。プーチン大統領が「欧米はいま、家族を破壊している。聖職者は同性同士の結婚を祝福するように強いられている」と、反LGBT的な発言をしたことで、「『文化的な戦争』という色彩が見えてくるように思う」という池上彰氏に、フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏はどう答えるのか。『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』(朝日新書)より一部を抜粋、再編集し、紹介する。
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池上彰 プーチン大統領の「反LGBT」発言が、アメリカの保守的な右派、つまりトランプ前大統領を支持するような人たちの共感を得ているというところがあります。結局、プーチン大統領が言っていることに、アメリカの保守が賛同するという不思議な構図が起こってきている。これは看過できない、興味深いことだと思います。これはどう見たらよいでしょうか。
エマニュエル・トッド 「反LGBT」というお話がありました。いま、西側の世界で何が起きているかというと、ひじょうにある意味、冒険的な社会的実験が行われているというような状況なんです。
たとえば、ホモセクシュアリティー。これはもう、完全に広く認められている話なわけですが、それよりもむしろ「男女の違いを超える」といったような、そういったディスクール(言説)、考え方が出てきています。
生物学的、遺伝学的に定められた「男女」というものは、そもそもないと考えたり、それを超えられたり、あるいは変えたりすることができるといったような考え方が生まれてきているわけです。
そういったなかで、確かに道徳的、倫理的な保守主義者たちは、「え? そんなことはあり得ない」と言います。そして、全世界的には約75%の人々が、どちらかというとロシアと近く、「男女っていうのは、違うものだ」と主張するわけですね。
ただ同じように、ヨーロッパがこの社会的実験を「進めすぎると」、もしかするとヨーロッパの保守層にもそういった「男女というのは、違うものだ」という考え方に共鳴するような人たちが増えてくるという可能性はあると思うんです。そうすると、ヨーロッパの保守層も「ロシアが正しい」と思うようになるのではないでしょうか。