【エピソード2】
Gさん:がんが消えてると聞きました。よかった! これまでの治療が効いた、ということですね。
医師:確かにそうです。これで6回目が終わったので、あともう一息。7回目と8回目、がんばりましょう。
Gさん:え? 治ったんだったら、もう薬物治療は必要ないのではないんですか?
医師:そう考えられないこともありません。あくまでもGさん次第ではありますが、一つ大切なことを申し上げると、もし、もしですよ、再発したら、そのときは残りの2回だけ、というわけにはいかないんですよ。最初からやり直しで、場合によっては8回でも終わらないかもしれません。
Gさん:そうなんですか。でも、これまで半年以上会社はほったらかしで、そろそろ戻らないと……
医師:それはよく分かります。しかし、Gさんはついこの前まで「副作用は思っていたほどたいしたことはない」って言われていて、私たちもGさんを見て、「思ったより元気にされているな」っていつも話してたんですよ。
Gさん:まあ、少しでも体力をつけて、いつでも仕事に戻れるようにと、少し無理もしていました。そして、「副作用はたいしたことはない」って言ってたのも自分を元気づけるためで、本当はかなり辛かったんです。お恥ずかしい話ですが、この5回目と6回目のときは「もう、いや。早く家に帰りたい」と泣きたくなるような気持ちでした。
医師:そうだったんですね。よく我慢してがんばってこられました。だからこそあと2回、目には見えないがん細胞をたたいて、徹底的に治療をしておいたほうがよいと、私たちGさんの治療を担当した全員が思っています。今は薬も良くなっていて、10年前だったらこの治療は無理だったくらいですよ。
Gさん:(しばらく黙って考えて)分かりました、先生。プロの判断を信じてあと2回、がんばります。
【この時の医師の気持ち】
予想していたよりずっとGさんが元気そうにしていたけど、実はやはり辛かったんだ。確かにこれまでの同じ薬物治療を受けてきた患者さんよりはとても体力もあって元気そうに見えたけど、かなり我慢していたことがGさんの口から直接聞くことができてよかった。7、8回目の治療を今回はしない、という選択肢もあるけど、これだけ一生懸命苦しい治療に正面から向き合ってがんばってきたGさんの今後のことを考えると、ここはもう一歩踏ん張って治療を受けることを納得してくれて、そしてわれわれを信頼してくれていることも確認できた。これからも親身に、そして全力でGさんの治療に当たっていこう。