「専守防衛」を基本にしてきた日本の安全保障政策を転換した岸田文雄政権。敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有し、防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増額するなど、軍拡に突き進んでいる。軍拡より必要なのは何か。AERA 2023年6月12日号から。
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いま最も懸念されているのが、中国が台湾に軍事侵攻する「台湾有事」だ。米軍基地があり、台湾と地理的に近接する日本にとって安全保障上の危機となりうる。元外務省国際情報局長で東アジア共同体研究所所長の孫崎享(うける)さんは言う。
「日本が敵基地攻撃能力などで軍事的に増強することは、日本の安全保障を高めることにはならず、かえって中国から報復を受けることになり、危険な方向に向かっています」
戦争の危機を前にした唯一の解決策は、戦争を起こさせないことだけだ。
孫崎さんは「関係の再構築に向けた外交が重要」と言う。
「1972年の日中共同声明で日本は、『台湾は中国の領土の不可分の一部である』とする中国の立場を『十分理解し、尊重する』として、中国との国交を正常化し関係を築いてきました。しかし、中国との対決姿勢を強めるアメリカの流れに乗り、中国との関係を悪化させています。今一度、日中共同声明での合意を守ると中国に伝え日本の立場を明確にすることが、平和的な解決への道となります」
憲法学者で学習院大学の青井未帆教授が共同座長を務める「平和構想提言会議」は昨年12月、「戦争ではなく平和の準備を」とする提言を発表した。
「まず、私たちが『おかしい』と声を上げ続けること。そして、声を上げ続ける環境が維持されることが大切です。その上で、安全保障論から憲法が切り離された今、どうすれば私たちが9条を補強して生かしていけるのか、一人一人が知恵を絞っていく段階にあると思います」(青井教授)
法政大学前総長の田中優子さんは「反戦の準備が必要」と説く。
「敵基地攻撃能力の保有や軍事費の大幅増額など、日本はすでに戦時体制に入っています。その戦争を回避させることが『反戦の準備』。そのための行動を起こしていくことが重要です」
反戦の準備としてまず、いま何が起きているのかを学ぶことが大切、そのためには「結社」が必要だと言う。