AERA 2023年5月22日号より
AERA 2023年5月22日号より

 暴力は何も生まない。暴力によって政治の基本的な仕組みが変わることもない。だが、暴力によって社会は劣化し、民主主義の健全な意思決定プロセスが歪められることになる。暴力にあらがうには、どうすればいいか。

 井上教授は言う。

「言論の力、言葉の力しかありません」

 民主主義は一人一人が言論や言葉を信頼し、政治に参画していくことで築かれていく。そのためには、「まずは選挙でしっかり一票を投じることが重要だ」と話す。

「また、SNSでは極端な議論も発信され、中にはどうかと思う意見もありますが、『発信すること』も大切です。それが暴力という直接行動に出ることを耐える力になり、暴力を防ぎ、起きたとしても、及ぼす影響を最小限に押しとどめることができます」(井上教授)

■面倒くさいを引き受け、言葉で訴え続ける

 時事問題に切り込むお笑い芸人の「せやろがいおじさん」こと榎森(えもり)耕助さん(35)は、「次」を起こさないためのキーワードとして「共同体」を挙げる。

「そもそも岸田首相襲撃は、世間から注目された安倍元首相の事件を模倣した側面があると感じています。しかし、小さい声や少数の声、困っている人の声を無視し続けていると、安倍元首相襲撃のような形で爆発するケースがあるやろうと思っていました」

 主義主張を暴力で訴えてはいけないと、多くの人はわかっている。それでも暴力に出るのは、言論で訴えても政治も世の中も変わらず、それどころかもっと悪くなるケースもあることが影響しているのではないかという。

 行動しても結果を伴わない経験を何度もするうち、「努力しても無駄」と感じる「学習性無気力」の状態に陥り、追い込まれた結果、暴力で解消しようとするのではないか、と。

「その時に必要なのが、共同体です。『群れること』や『集団をつくること』は実はすごく大切で、何かを一緒に達成した時の楽しさや安心感は、群れることで大きくなります。そして大切にしたいコミュニティーや守りたい人間関係があれば、虚無感に陥っても、暴力に出るという行動を起こそうという気になりません」(榎森さん)

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