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 人間には、視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚の「五感」がある。

 IT技術は社会の利便性向上に大きく貢献してきた。遠い店に行かなくとも、重い荷物を持ち帰らなくとも、インターネットでありとあらゆる買い物ができる。重い本を抱えなくとも、自宅にいくつも本棚を並べなくとも、パソコンやスマートフォン、タブレットを使って、電車の中でもどこででも読書ができる。

 だが、インターネットも基本的には2次元の世界だ。そのため、視覚や聴覚に対してはある程度の欲求を満たすことができても、触角や味覚、嗅覚などに対応するのは難しかった。それでも、進化が止まらないのがITだ。2次元の世界から、3次元を生み出すことに成功したのが3Dプリンター。紙などに平面的に画像や文字などを印刷する通常のプリンターを超えて、立体的に造形する最先端のプリンターだ。

 さらに、あくなき開拓を続けるITは、ついに嗅覚の領域にも一歩足を踏み入れた。スマートフォンアプリと連動させる携帯機器のことを「アプセサリー」と呼ぶが、好きな場所で好きな香りを発散させ楽しめるアプセサリーが開発・販売されている。

 アプリを使っていくつかの質問に答えることで、自分に最適なアロマを診断してくれる。また、アプリ内から香りを噴出するアクセサリーや各アロマカートリッジを購入することもできる。購入したアクセサリーは、iPhoneのイヤホンジャックに挿入。その後はアプリ内からの操作で好きな時に香りを噴出させてアロマを楽しめるのだ。

 また、香りと匂いといえば食べ物である。ウナギ屋さんの前を通りかかり、焼きたてのかば焼きの香ばしさを感じたら、客は思わず足を止めて立ち寄りたくなる。商店街のパン屋さんから漂う、こんがり焼けたパンの香りが客を呼び寄せる。こうした人間の衝動を上手に利用した「匂い販促」といったものが登場した。

 いろいろな食べ物の匂いを噴出することができるマシンで、店先からおいしい香りを漂わせて、販売促進につなげようというわけだ。飲食店でも、調理して時間がたてば匂いが漂わなくなるものや、もともと強いにおいを出さない食物もあり、四六時中、匂いで客を集めることは困難だった。それを解決しようというのが、この「匂い販促」である。

 いよいよレパートリーを広げて、人間の五感に広くアピールし始めたIT技術。人間の生理の領域にどこまで肉薄していくことができるのか。スマートフォンで焼き肉屋さんを検索して、とある焼き肉屋さんのサイトを開くと、スマホから焼き肉が焼ける音と匂いがする――そんな時代がやってくる日も近い気がする。