政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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間もなく開催されるG7広島サミットは、被爆地広島を通じて核兵器削減や核なき世界というところに日本が踏み込み、メッセージを出せるかどうかが注目でしょう。そしてもう一つ注目したいのは、インドや韓国など8カ国首脳を招待し、「アウトリーチ会合」を行うことです。
経済成長の著しい大国インドはともかく、なぜ韓国が?という声も聞こえてくるかもしれません。しかし、4月に開催された米韓首脳会談が特別待遇だったことからもわかるように、いま米国は韓国との関係を重要視しているのです。
韓国が特別待遇を受ける理由の一つは、半導体を中心とするサプライチェーンです。これについては、尹政権はすでにアジア太平洋地域にコミットするという立場を鮮明にしています。実はこれこそが韓国が中国に対してどう向き合っていくのかの試金石でもありました。最近の台湾問題への韓国側のコミットを見ていてもわかるように、尹政権はこれまでのような「米国も中国も」というのではなく、明確なG7もしくは西側諸国へのコミットを深めていく方向に舵を切りつつあるようです。
もう一つ重要なのは、韓国の武器輸出国としての一面です。韓国の武器輸出額は、2020年から22年の間で3倍に増え、国別順位は世界14位から8位に上昇しています。既にポーランドが韓国から武器を輸入することを決めたように、ウクライナ戦争をバックアップできる兵器の製造を請け負うという意味においても、韓国は非常に重要なポジションにいます。
このような現状の中で東アジアは、直近では対ロシア、そして中長期的には対中国で、日韓も含めた西側諸国との対峙関係というものがより強まっていく可能性がありそうです。東アジアは今までのような我々が想定している東アジアではなく、NATOと連帯しながら中ロに向き合っていく──その中で日韓関係を考えざるを得ない状況にきています。しかし、そうした大きな構図の変化の中での日韓関係が、日韓それぞれの国民に受け入れられるのかどうかは未知数であり、とりわけ韓国内の反発は強そうです。日本も改憲の問題も含めてまだ波乱です。
◎姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2023年5月15日号