消費社会論関係の著作で知られるライターが、「埼玉」という場所から見た新たなライフスタイルのありかたを提案した新書。いまひとつ個性に欠ける県と認識される「埼玉」への着眼を意外に思う向きもあるかもしれない。しかし、著者はそのような特性にこそ魅力を見いだす。特徴はないが、池袋や新宿など都心に気軽に足を運べる。ショッピングモールやエキナカも充実しているので、日常的な買い物にも事欠かない。それらの魅力に気づき九年前、埼玉に居住の地を移した自身の経験を踏まえ、埼玉は「意識の高い」消費と「意識の低い消費」両者に手が届く「実に『ちょうどいい』消費生活」の場所だと力説する。
 タイトルが示す通り、もちろんこれは埼玉に限った話ではない。観光地としてのブランドを確立した沖縄でさえショッピングモールが造られる昨今は、日本全体が「埼玉化している」という。モールやチェーン店など「個性がない」風景が日本各地に林立する状況は、これまで悲観的に捉えられてきた。しかし本書はそうした状況とあえて「共存」してゆく希望を示唆している。

週刊朝日 2015年1月23日号