本書を一読して思うのは、『ベルサイユのばら』ってのはよくできてたんだなあ、ってこと。
 マリー・アントワネットの生涯を丁寧に追う&彼女がどうしてああいう運命をたどったかを解き明かすという内容だけれど、だいたいは『ベルばら』を読んでいたらそこに描いてあったような気がするのである。少なくとも『ベルばら』読んでれば、この本の理解はすごく早いと思う。作者もいちおうそれはわかってるみたいで、アントワネットとフェルセンの恋愛のことなんか「皆さんご存じ」を前提にしてる。『ベルばら』がなかったら日本人のほとんどはフランス革命なんか知らずに終わってますよ。
 もちろん『ベルばら』だけでは知り得なかった情報もある。アントワネットとルイ16世の「7年間成就されなかった結婚」の問題について。これは、ルイ十六世が包茎で、その手術を勧められたが怖がって七年かかった、という、歴史小説家ツヴァイクの説が有名であるけれど、そうじゃないそうだ。包茎ではなくて、単に結婚当初は夫婦ふたりとも子供で(いまの日本でいうなら中学3年生と2年生)、その後はやろうとしたけど痛くてできなかったと。「マリー・アントワネットのほうには狭いという事情もあったようだ」とも書いてあって、そうか狭かったのか、と感じ入る。
 アントワネットの兄のヨーゼフが、「結婚が成就されない問題」解決のために、オーストリアからフランスにやってきて、ルイ十六世に包茎手術をウンと言わせた、っていう通説も、そうじゃない、と。ヨーゼフはルイ16世には「ともかくも思い切って最後まで行けと言い」、アントワネットには「夫にもっとやさしく接し、本気で取り組めと言い聞かせたに違いない」というところは笑ってしまった。ヨーゼフが書いた手紙が残っていて、フランス文学者の著者はそこから「違いない」と書いている。もちろん、包茎問題以外にも読み所はあります。

週刊朝日 2014年12月5日号

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