世間にはいろんな缶詰があるもんだ、と思いたくてこの本を買ってみたが、案外そうでもなかった。さいきん「あえて缶詰にしなくてもいいものを缶に詰めたキワモノ缶詰」はけっこうあり、本書にも「だし巻き」の缶詰なんてものが紹介されている。京都の卵焼き専門業者がだし巻きを作っているのだが、それが6缶セット3300円と言われると「酔狂」という以外の言葉が思い浮かばない珍缶詰だ。でも、だし巻きとはちょっとジミではなかろうか。
 私が期待するのは「デコレーションケーキの缶詰」とか「かき氷の缶詰」とか、どういう構造なのか想像もつかないキワモノ缶詰と、そのガッカリな種明かし、みたいなものだったんですけど。
 缶詰というのは、案外と堅実なものなのだ。大きく分けて「素材系(ツナやサバ水煮やコンビーフとか)」と「調理系(牛の大和煮やシチューとか)」とあり、私としては缶詰食品ならではの、缶の金属臭と、みょうに濃い味つけが印象的な調理系に惹かれる。もちろんそういう缶詰はいっぱい紹介されているのだが、缶詰博士を名乗る著者は「多くの人は、いまだに、/(しょせん、缶詰。大したことない、ない)/高を括っている」などと書いていて、つまり、缶詰とは思えないほど美味しい、ということをホメ言葉として使っているのだ。私はこれが不満だ。「缶詰ならではのまずさ」こそが「缶詰の楽しみ」ではないのか。……そんなことはないか。
 沖縄のタコライス缶詰なんて、缶詰ならではのチープ感をかもしだしそうなのに「本格的ですぞ」とか書かれていてうなだれる。「これなら……」と思ったのは、静岡の「清水もつカレー」ぐらいか。ウスターソースをかけたカレーの味に近いものがあるという。そこに豚もつ。これなら缶詰らしいチープ味でいいかもしれない。
 ちょっと気になるのは紹介文がくだけすぎてるところで、もっとハードボイルドに紹介してほしかった。

週刊朝日 2014年11月14日号

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