『ハイペリオン』 ゲサフェルスタイン(Album Review)
『ハイペリオン』 ゲサフェルスタイン(Album Review)
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 フランスはリヨン出身。2019年の夏に32歳のバースデーを迎える、ハウス・テクノ界の次世代を担うDJ/音楽プロデューサー=ゲサフェルスタイン。本名をマイク・レヴィといい、“ゲサフェルスタイン”という何ともややこしいアーティストネームは、「ゲザムトクンストヴェルク(総合芸術という意味)」と、相対性理論で知られるドイツの物理学者アインシュタインからモジったものだそう。日本での知名度はまだまだといったところだが、クラブシーンや音楽マニア、DJ~ダンサーの間でも人気を広げつつある。

 ディオールやジバンシーなど、高級ブランドとのコラボレーションや、ヴォーグ誌で特集を組まれるなど、ファッション業界でも高い注目を得ている、オシャレを地でいくタイプのミュージシャン。音の方も、代官山のセレクト・ショップでかかってそうな、おしゃれ系フレンチ・エレクトロ。ここまであからさまだと、もはやぐうの音も出ない。ありきたりではあるが、色んな意味で“カッコイイ”人。

 ハウス、テクノとの出会いは15歳の頃……ということは、逆算するとヴィタリックの「La Rock 01」が流行っていた頃か(とも限らないが)。10代の頃から音楽活動をスタートさせ、2008年にEP盤『ヴェンジェンス・。ファクトリー』でデビュー。コンスタントに毎年ミニ・アルバムをリリースした後、2013年に初のスタジオ・アルバム『アレフ』を完成させる。本作からは、「パシュート」や「アレフ」などのスマッシュ・ヒットが生まれ、アルバムは本国フランスで30位、アメリカのダンス・チャートでは16位まで上昇する快挙を達成した。

 本作『ハイペリオン』は、その『アレフ』から5年半ぶりとなるセカンド・アルバム。カニエ・ウェストの『イーザス』(2013年)を彷彿させる、前作の透明パッケージのジャケ写も強烈だったが、本作はそれをも上回る“オールブラック”という衝撃。おしゃれも過ぎると、超シンプルに回帰するのだろうか……。

 アルバムからは、2曲目に収録された「リセット」が2018年11月に1stシングルとしてリリースされた。制作・ゲスト共に、一切クレジットなしの完全セルフ・プロデュース曲。ヒップホップ的アプローチ含む、ゲサフェルスタインらしいミステリアスなナンバーで、ヒット云々は別として、クオリティの高い超一級品。オープニングらしい神々しさを感じる「ハイペリオン」からの流れ(繋ぎ)も完璧だ。

 今年1月には、R&Bシンガーのザ・ウィークエンドをフィーチャーした2ndシングル「ロスト・イン・ザ・ファイア」をリリース。フランスでは78位どまりだったが、イギリス、スウェーデンではいずれも9位まで上昇し、自身初のTOP10入りとなる大ヒットを記録した。ウィークエンドが1年前にリリースしたEP盤『マイ・ディアー・メランコリー、』収録の「アイ・ワズ・ネヴァー・ゼア」に制作、フィーチャリング・アーティスとして参加したことがキッカケで、コラボに至った模様。その「アイ・ワズ・ネヴァー・ゼア」よりは、同フレンチ・エレクトロの代表格=ダフト・パンクとコラボした「スターボーイ」(2016年)や、昨年大ヒットしたケンドリック・ラマーとの「プレイ・フォー・ミー」に近いテイストで、いずれにせよウィークエンド色が濃く出たシンセ・ポップに仕上がっている。ブロンズ像に扮したミュージック・ビデオも芸術的。

 アルバム発売の1週間前には、ファレル・ウィリアムスとコラボレーションした3rdシングル「ブラスト・オフ」を発表。こちらは、ゲサフェルスタイン“らしさ”が活かされたフレンチ・エレクトロで、エフェクトのかかったファレルのボーカルも、イイ具合にサウンドとマッチしている。ダフト・パンクとの「ゲット・ラッキー」(2013年)にも通ずる、70年代ディスコのステップも所々に採用していて、個人的には本作のハイライトと太鼓判を押す。

 彼らの他には、浮遊感漂うオルタナティブR&B「ソー・バッド」に、米カリフォルニアのポップ・ロックバンド=ハイムが、透明感のあるボーカルワークと、電子音が無造作に飛び交うサウンドとの合致がすばらしい「フォーエバー」には、同フランスのDJ/プロデューサー=ザ・ハッカーと、カナダのシンセ・ポップ・デュオ、エレクトリック・ユースがゲストとして参加している。

 「ブラスト・オフ」への橋渡し的役割を果たす「エヴァー・ナウ」や、映画の緊迫したシーンをイメージする、スリリングなテクノ・ポップ「ボルテックス」、テクノとR&Bが見事に中和された「ミモーラ」、米LAのサックス/キーボーディスト=テラス・マーティンと共作した、鬱々しい雰囲気を醸し出す「ヒューマニティ・ゴーン」と、一貫性は保ちつつも、それぞれの個性をしっかり表現した極上のエレクトロ・ポップが連続する。本作は、テクノやハウスというよりは、オルタナR&Bが主となった作品。ザ・ウィークエンドの影響もあるかもしれない。

 しかし、これだけの才能に恵まれながら、さらにモデル顔負けの超イケメンなんて。世の中、何て不公平なんだろう……。

Text: 本家 一成

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