『All the Things You Are』Kenny Drew Quartet
『All the Things You Are』Kenny Drew Quartet
この記事の写真をすべて見る
『All the Things You Are』Kenny Drew Quartet
『All the Things You Are』Kenny Drew Quartet

 1981年は前年の3割増しとなる延べ74組が来日した。絶頂期のフュージョン勢が25組と最多、主流派の21組、新主流派の9組、ヴォーカルの8組が続く。トラッド、スイング、スイング・ビッグバンド、モダン・ビッグバンド、フリーは各2組しかない。足を運んだのは2月の「オスカー・ピーターソン・ビッグ4」、5月のバディ・リッチ、7月のクインシー・ジョーンズだけだ。その頃は時間もなく関心も薄かったのだろうが、1月の「クルセイダーズ」、2月のチック・コリア=ゲイリー・バートン、4月の「スタッフ」、5月の「ブレッカー・ブラザーズ」「ウェザー・リポート」、7月の「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ’81」、10月のマイルス、11月のデレク・ベイリー(ギター)=ミルフォード・グレイヴス(ドラムス)、ウディ・ショウ(トランペット)5=ボビー・ハッチャーソン(ヴァイブ)、パット・メセニー(ギター)は観ておくべきだったかと。

 28組が33作を残した。スタジオ盤が17作にライヴ盤が16作、日本人との共演は前者では12作(10作は和ジャズ)に及ぶが後者では2作のみ(和ジャズは1作)で、14作は来日組オンリーだ。水準作、未CD化作、超入手難作は外し、ケニー・ドリュー『オール・ザ・シングス・ユー・アー』、リッチー・バイラーク『コンプリート・ソロ・コンサート1981』、マイルスの『ライヴ・イン・ジャパン’81』を紹介していく。

 我が国でケニー・ドリュー人気に火を付けたのは『ダーク・ビューティ』(Steeple Chase/1974年)だった。それまではパウエル系の名手というのが通り相場で、最高傑作の誉れ高い『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside/1956年)は既に「幻の名盤」と化していた。近々の活動を伝えるのはジョニー・グリフィンの『ザ・マン・アイ・ラヴ』(Polydor/1967年)、デクスター・ゴードンの『モンマルトル・コレクション』(Black Lion/同年)あたりしかなく、実に13年ぶりのリーダー作『デュオ』(Steeple Chase/1973年)での洗練にも漂白にも映る変貌は万歳三唱というわけにはいかなかった。そんななか、同作での覇気漲るプレイはアル・ヒースのパタパタ・ドラミングと相まって絶大な支持を獲得、先のトリオ盤ほかの国内復刻が続く。1975年9月にはゴードンと組んで早くも初来日し、翌年3月にもジャッキー・マクリーンと組んで再来日している。

 三度目は1981年1月、この度はブルー・ミッチェル(トランペット)と「ホレス・シルヴァー・クインテット」の黄金時代を支えたジュニア・クック(テナー)を同道し、11日から29日まで各地を巡演した。推薦盤は東京で収録され、この年にLP(Lob)で発売、1991年に初CD化(同)、のちにTDK盤(1993年/上の画像)、Absord盤(2002年/上の画像)、Sony盤(2006年/下の画像)などが再発されている。

 前半はカルテット。タイトル曲はミディアム・スインガーで。クックが力まず息まずの方向性を提示、ファンキーに弾けるドリュー、構成力に秀でたクック、歌心に富むサム・ジョーンズ、クックとジミー・コブの8小節交換と続く。いきなりのベスト・トラック。

《ヴァーモントの月》はバラードで。これもクックが柔和な情感の漂うムードを設定、月明かりの中をたゆたう心地よさで、ドリュー、サムが続く。早くもセカンド・ベスト。それにしても、クックやチャーリー・ラウズ等、B級ハードバップ・テナーはたまらん。

《アローン・トゥギャザー》はミディアム・ファストで。テーマに続くクックのソロはちと曲を扱いかねた印象だ。ドリューが持ち味全開、クックとコブの8小節交換が続く。

《ヤードバード組曲》はファストで。好調なドリュー、的確なサポートと裏腹に歌心に乏しく小節数が怪しげなコブのロング・ソロ、これまた扱いかねた印象のクックが続く。

 ここから2曲はドリューのソロ。自作の《サンセット》はバラードで。終始、テンポ・ルバートで印象派風の楽想を紡いでいく。もう昔のままのオレじゃないよと言いたげな。

《イエスタデイズ》はドリューのピアニズムのショーケースだ。中盤にイン・テンポでストライド奏法を挿むほかはテンポ・ルバートでテクニカルに弾き抜ける。それだけだ。

 続く2曲はトリオ。《イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー》はファストで。ドリューの快調なテーマとソロ、コブのソロが続く。この夜のコブに3コーラスはやらせすぎだ。

《ハッシャバイ》はミディアム・ファストで。ドリューのテーマと、この夜のベスト・スリーに入るソロ、サムのソロが続く。後テーマで思わず繰り出すドリュー節も嬉しい。

 最後はカルテット。コルトレーンの《ジョン・ポール・ジョーンズ》はミディアムで。テーマ・ユニゾンのあと、ドリュー、クック、サムの墨汁滴るファンキーな好演が続く。

 均せば三ツ星半の好ライヴだが、こうした何の変哲もない! 日常的な演奏を愛でる方は少なくないだろう。ジャズ魂に満ちていればB級でも素晴らしく、さもなけりゃA級でも詰まらないということ。このあとドリューは日本側の企画で毒にも薬にもならない凡作の量産に向かう。新生面を開いたという苦しい弁護もあったが、当時も今も筆者はいかなる関心も持てない。そんな方にも薦められる、漂白優美路線に邁進する前夜の好ライヴだ。[次回10月6日(月)更新予定]

【収録曲一覧】

All the Things You Are / Kenny Drew Quartet (Jp-Absord [Lob])

1. All the Things You Are 2. Moonlight in Vermont 3. Alone Together 4. Yardbird Suite 5. Sunset 6. Yesterdays 7. It Could Happen to You 8. Hush-A-Bye 9. John Paul Jones

Recorded at Yubin Chokin Hall, Tokyo, January 23, 1981.

1-4: Quartet, 5-6: Piano Solo, 7-8: Piano Trio, 9: Quartet
Kenny Drew (p), Junior Cook (ts), Sam Jones (b), Jimmy Cobb (ds).

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。

[AERA最新号はこちら]