『レジェンダリー・クリスマス』ジョン・レジェンド(Album Review)
『レジェンダリー・クリスマス』ジョン・レジェンド(Album Review)

 カニエ・ウェストのレーベル<G.O.O.D.ミュージック>から発表した衝撃のデビュー・アルバム『ゲット・リフテッド』(2004年)のリリースから、もう14年以上経ったというから、時の経つ早さには驚かされる。そして、ジョン・レジェンドの息の長さにも。

 米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高4位をマークした、その『ゲット・リフテッド』以降、2ndアルバム『ワンス・アゲイン』(2006年)が同チャート3位、3rdアルバム『エヴォルヴァー』(2008年)も3位、4thアルバム『ラブ・イン・ザ・フューチャー』(2013年)は4位と、4作連続の全米TOP10入り(ザ・ルーツとのコラボ・アルバム『ウェイク・アップ!』を含むと5作)を果たしている。

 2016年リリースの前作『ダークネス・アンド・ライト』は惜しくもランクインを逃した(最高14位)が、ミゲルやチャンス・ザ・ラッパーとコラボしたタイトル含め、アルバムのクオリティは作品毎に向上。チャートではなくアーティストとしての“質”については、今さら何をいう必要もないだろう。翌2017年は、日本でも大フィーバーした映画『美女と野獣』のテーマ曲(セリーヌ・ディオン&ピーボ・ブライソン)を、ポップ・スター=アリアナ・グランデとデュエットし、全世界で高く評価されたのも記憶に新しい。同年には、【アカデミー賞】受賞作『ラ・ラ・ランド』にも出演・楽曲提供し、話題を呼んだ。

 それらの活動を経てリリースされた本作『レジェンダリー・クリスマス』は、自身初のクリスマス・アルバム。全曲オリジナルではないが、彼らしい選曲とゲスト陣によるホリデー・ソングが満載。オリジナル曲も、カバーが中心になりがちなクリスマス・アルバムにしては多い6曲と充実。JBやスティーヴィー・ワンダーなど、かつてのソウル・スターたちに続き、遂にジョン・レジェンドもその仲間入りを果たした。

 そのスティーヴィーが1967年にリリースした『想い出のクリスマス』からは、カバーの絶えない人気曲「ホワット・クリスマス・ミーンズ・トゥ・ミー」を選曲。間奏では、スティーヴィーのハーモニカがフィーチャーされていて、彼そっくりの歌唱にも思わずニンマリしてしまう。同<モータウン・レコード>からは、マーヴィン・ゲイのカバー「パープル・スノウフレークス」(1973年)と、ジャクソン5の『クリスマス・アルバム』(1970年)に収録された「ギヴ・ラヴ・オン・クリスマス・デイ」も選曲されている。クリスマス=モータウンってイメージは強いし、彼らの音楽が自身のキャリアに繋がっていることは、どのアルバムにおいても節々に伺え、これらの楽曲をチョイスしたのも納得できる。

 メーガン・トレイナーがソングライターとして参加したオリジナル・ソング「ブリング・ミー・ラヴ」も、彼女らしいレトロ感覚のモータウン・ポップ。レイ・エバンズ&ジェイ・リビングストンのコンビによる名曲「シルヴァー・ベルズ」(1950年)も、50年代というよりは60年代っぽい仕上がりで、本作はこの時代のサウンド(60年代後半あたり)が中心になっている。

 ナイル・ホーランの「スロー・ハンズ」(2017年)や、ブリトニー・スピアーズの「ワーク・ビッチ」(2013年)を手掛けた女性シンガー・ソングライター=ルース・アン・カニンガムとジョンが共作した「ノー・プレイス・ライク・ホーム」は、2ndアルバムの雰囲気に近いニュー・ソウル~ネオ・ソウル。ワン・ダイレクションやニッキー・ミナージュに楽曲提供したウェイン・ヘクター作の「ラップ・ミー・アップ・イン・ユア・ラヴ」もその路線で、これまでのサウンドを延長したような曲も、いくつかみられる。

 クリスマス・アルバムの定番「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」は、ジャズ・シンガー/ベーシストのエスペランサ・スポルディングとのデュエット。両者のビンテージ感あるボーカルが相性抜群に重なって、ジャジーな空間を演出する。メドレー形式の「メリー・クリスマス・ベイビー/ギヴ・ラヴ・オン・クリスマス・デイ」も、ショーを観ているかのような錯覚に陥り、クリスマスのムーディーなディナー・タイムが音楽によって蘇る。

 ダン・ウィルソンと、アルバムのトータル・プロデュースを担当するネオソウルの第一人者=ラファエル・サディークが手掛けた「ウェイティング・フォー・クリスマス」や、エド・シーランやカミラ・カベロなどの人気シンガーを手掛ける、エイミー・ワッジがソングライターとして参加した 「バイ・クリスマス・イヴ」といったシンプルなピアノの弾き語りは、ジョン・レジェンドの真骨頂。前者はカバー曲かと錯覚するようなオールディーズ・テイストで、後者は泣かせのゴスペル・バラードに仕上がっている。

 そのほかにも、故チャールズ・ブラウンの6/8拍子ブルース「プリーズ・カム・ホーム・フォー・クリスマス」(1960年)や、ファンキーなクリスマス・ソング「メリー・メリー・クリスマス」、讃美歌「オー・カム、オール・イー・フェイスフル」などの名曲を、まるでオリジナル・ソングかのように余裕でキメるジョン氏に脱帽する。幅広い層にも支持されそうな内容になっていて、今後ホリデー・シーズンを彩るアルバムの1枚として、長きにわたり愛され続けそうだ。

 国内盤は、11月21日に発売される。

Text:本家一成