『Live Under the Sky』V.S.O.P. The Quintet
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 元祖「V.S.O.P.クインテット」の活動は1977年から79年まで、ライヴ盤は3作しかないが再びとりあげることにした。結成の経緯は連載の第35回をご覧いただきたい。結成された1977年こそ成功を収めたが、アコースティックが地に堕ちた本国でその出番はなかった。1979年、日本側の熱烈要請に応じて再結成される。それぞれがアコースティックに色気を見せていたなかで願ったり叶ったりだったのではないか。これはその時の、2日にわたる野外コンサートの模様を収める。その初日に、豪雨で続行が危ぶまれるなか、メンバーも観客も雨に打たれつつ燃えたという「伝説」が生まれた。いまだファンの話題にのぼり、生涯のベスト・ライヴと語る方もある。関西にいた筆者は観ていない。後日、その模様が報じられ嫉妬に似た感情が湧いた。やがて発表された2枚組に飛び付き一聴に及んだが、それほどの出来とは思えない。何度聴き返しても三ツ星半どまり、早々に売り飛ばした。

 CD化は1989年だったと思うが、アナログ通りの編集で、7月29日に録音された唯一のスタジオ盤『ファイヴ・スターズ』を併録した2枚組だった。後者はタイトルとは裏腹に出がらしみたいな代物だ。1997年、未発表の《アイ・オブ・ザ・ハリケーン》を追加して演奏順に編集した上げ底の2枚組『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説』が発表される。「伝説」に出世したのはこのときではないか。ともあれ、ともに筆者の関心の外だった。2004年、四半世紀を経て未発表だった7月27日の模様を併録した2枚組が発表される。推薦盤だ。大して期待もしないで未発表の2日目を一聴したが、音質といい演奏といい、即座に快ライヴと確信した。いかに「伝説」でも初日だけなら推薦しない。プログラムは初日のアンコール《星影のステラ~オン・グリーン・ドルフィン・ストリート》を除いて共通する。《ハリケーン》だけは2日目のほうが長い。聴き比べ「七番勝負」といこう。

 《オープニング》で客層の違いが知れる。初日はロックキッズ風の振る舞いが目立ち、2日目は熱いなかにも節度を弁えたファンが多い。一番勝負はハービーの人気曲《アイ・オブ・ザ・ハリケーン》。フレディが流麗にも平板にも響き、ショーターが執拗に断片を連ねる初日より、フレディが抑揚に富み、ショーターが無伴奏と減速で不可解さを増し、ハービーが閃く2日目が勝る。ドカスカ、ドシャバシャ、トニーも2日目が一段と凄い。

 二番勝負はロンの《ティア・ドロップ》。クラシカルな気品を湛えた美しいエレジーだ。ホーンはアンサンブルのみ、ロンがフィーチャーされる。長めの初日は散漫だが、長さも妥当な2日目は果敢な攻めで飽かせない。

 三番勝負はハービーの《ドーモ》。イケイケ・ファスト系だ。初日はショーターが、2日目はフレディが先発、ショーターはともに勝手し放題の怪演! を見せるが、フレディの均整がとれハービーが光る2日目が僅差で勝る。

 四番勝負はトニーの《パラ・オリエンテ》。ハービー作かと思いかねないファンキーなジャズロック調だ。ホーンはアンサンブルのみ、ロンとハービーがフィーチャーされる。ともに出来は似たり寄ったり、全体のファンキー度とグルーヴ度で2日目が勝るようだ。初日は、ここで雨脚が強まる。

 五番勝負はトニーの《ピー・ウィー》。フレディが抜け、ショーターのバラード演奏がフィーチャーされる。長めでダレる初日より2日目がいい。

 六番勝負はフレディの《ワン・オブ・アナザー・カインド》。イケイケ・ファスト系だ。フレディが熱いのに小作り、ショーターがアイデアに乏しい初日より、フレディが火焔を噴き、ショーターが狂気を発散する2日目が勝る。トニーも狼藉の極み。それにしても、初日の20分は長過ぎた。

 七番勝負はロンの《フラジャイル》。シュールな曲想でホーンのスリリングなインタープレイで進行する。これは互角だ。結局、2日目が星半分は勝る。

 勝負対象外、初日のアンコールはショーターとハービーのデュオだ。アンコールが続き周りは消耗したという。《ドルフィン》をやるはずが、なぜかショーターが《ステラ》を吹き始める。自然にそうなったらしい。記憶に残る名演として「伝説」の一部になった。虚心に綴った好演だが、名演とまでは言えまい。「ウェザー・リポート」でザヴィヌルと組んだデュオにこれを凌ぐものは割とある。

 アンコールに関連して妙な小細工があった。2日目の《フラジャイル》から初日のアンコールにつなぐため、曲が終わりアンコールの求めが続くなか、7分20秒以降に初日の録音をつないでいるのだ。演奏では珍しくないが会場の様子の接合テイクなんて見たことがない。それは初日の同曲に続け、アンコールは2枚目の頭に置くべきだった。加えて、アンコールは27日録音で未発表とクレジットするポカミスを犯している。リイシューに携わったボブ・ベルデンはホントに困ったお方だ。

 思い出のよすがか、初日の雨音までも愛でる方がいるという。それほど雨音が好きなら雷鳴まで摸写したカスケーズの《悲しき雨音》もお薦めしたい。また初日の録音は翌日にミックスされたとあるが、制作側も2日目をまったく顧みず「雨に唄えば」だったのか。ともあれ、2日目は『ライヴ・イン・USA』『熱狂のコロシアム』にも迫りうる快ライヴだ。初日の演奏をそれほど買っていない方にも「伝説」の語り部の方にも一聴をお薦めする。[次回6月16日(月)更新予定]

【収録曲一覧】
Live Under the Sky / V.S.O.P. The Quintet (Columbia/Legacy [Jp-CBS/Sony])

[Disc 1] 1. Opening 2. Eye of the Hurricane 3. Tear Drop 4. Domo 5. Para Oriente 6. Pee Wee 7. One of Another Kind* 8. Fragile
[Disc 2] 1. Opening 2. Eye of the Hurricane 3. Tear Drop 4. Domo 5. Para Oriente 6. Pee Wee 7. One of Another Kind* 8. Fragile 9. Stella by Starlight 10. On Green Dolphin Street

Freddie Hubbard (tp), Wayne Shorter (ts, ss*), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds).

[Disc 1][Disc 2] 9, 10: Recorded at Denen Colosseum, Tokyo, July 26, 1979.
[Disc 2] 1-8: Recorded at Denen Colosseum, Tokyo, July 27, 1979.

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。

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