本来やりたかった音楽を追求した渾身の復帰作 / 『レインボー』ケシャ(Album Review)
本来やりたかった音楽を追求した渾身の復帰作 / 『レインボー』ケシャ(Album Review)
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 2010年の米ビルボード・ソング・チャートで年間首位に輝いた「ティック・トック」や、「ウィ・アー・フー・ウィ・アー」(2010年)、「ティンバー」(2012年)などのNo.1ヒットをもつポップ・シンガー、ケシャ。奇抜なファッションや、ゴシップ誌でも取り上げられる奇行も話題となり、デビューして間もなく、トップ・アーティストに上り詰めた。

 しかし絶頂期だった2014年10月、それらのヒット曲を手掛けた音楽プロデューサー、ドクター・ルークに性的暴行をされたとして訴訟を起こし、数年間は音楽活動を休止していた。本作『レインボー』は、その裁判を乗り越えて発表した、およそ5年ぶりとなる復帰作で、「このアルバムは私自身。待っていてくれた人たちに感謝している」と本人は語っている。6月にリリースされた先行シングルの「プレイング」は、そのルークへのメッセージが込められた歌詞が話題を呼んだ。

 「スリフト・ショップ」(2012年)の大ヒットで知られるヒップホップ・ユニット、マックルモア&ライアン・ルイスのライアンがプロデュースした「プレイング」は、静かなピアノのイントロからはじまるバラード曲。優しい歌い出しから、後半になるにつれて感情を露わにするような熱唱に変わり、ケシャのパワーボイスに圧倒させられる。本作は、これまでの作品でみられたエフェクターにかけた声や、ケシャの代名詞ともいえるエレクトロ・サウンドは封印した、ロック・アルバムに仕上がっている。ケシャが本来やりたかったことは、こういう音楽なのだろう。

 優しく諭すように歌う、フォーク・ギターの弾き語り「バスターズ」で幕を開け、米人気ロック・バンドのイーグルス・オブ・デス・メタルが参加した、スピード感のあるロック・チューン「レット・エム・トーク」、そしてホーンの音が飛び交う70年代風ファンク「ウーマン」と、冒頭の3曲は古き良き時代のサウンドを再現したナンバーが続く。「ウーマン」では、ニューヨークのファンク・バンド、ザ・ダップ・キングス・ホーンズがバックを務めている。

 そこから一転、4曲目の「ヒム」は、今流行りのトラップを意識した、ヒップホップ調のミッドチューン。これまでのケシャの楽曲にはなかったタイプのナンバーだ。そこから先行シングル「プレイング」でピークを迎え、ケシャのパワフルなボーカルが映えるポップ・チューン「ラーン・トゥ・レット・ゴー」へと、聴き手を飽きさせない展開をみせる。

 インディー・ロック的な「ファインディング・ユー」や、ドリー・パートンとの絶妙な絡みを聴かせる、ブルース調の「オールド・フレイムズ(キャント・ホールド・ア・キャンドル・トゥ・ユー)」、カントリー・ミュージックを意識したアップ・チューン「ハント・ユー・ダウン」、3/4拍子のワルツっぽいナンバー「ゴジラ」など、曲調はめまぐるしく変化するが、アルバムを通して聴くと統一感はあり、音がバラバラしている感じは一切ない。

 また、映画のエンディング・シーンが浮かぶ壮大なバラード「レインボー」や、フックの雄たけびが頭にこびりつく「ブーツ」、攻撃的なボーカルでハジけるハードロック・チューン「ブギ―・フィート feat.イーグルス・オブ・デス・メタル」など、ケシャが全力で歌う姿が浮かぶようなナンバーも、本作の聴きどころ。以前のようなポップ要素もあるが、売れ線は無視した、アーティストらしさが全面に出たアルバムといえる。

 「プレイング」を手掛けたライアン・ルイスの他、プロデュースは、『ウェイ・トゥ・ノーマル』(2008年)などのヒット作で知られるロック・ミュージシャンのベン・フォールズや、アデルやマドンナなどの作品にも参加した経験をもつリック・ノーウェルズ、今年リリースしたミシェル・ブランチの復帰作や、ペンタトニックスのアルバムなどを手掛けるドリュー・ピアソンなどが担当している。

 ケシャは、8月19日、8月20日に開催される【サマーソニック2017】と、8月21日に名古屋DIAMOND HALLにて単独来日公演が決定している。


Text: 本家 一成

◎リリース情報
『レインボー』
ケシャ
2017/8/11 RELEASE

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