外国政治のことは、テレビに映るその政治家の人相で決めてしまったりする。薄熙来(はくきらい)事件なんて、習近平が悪相寄りのルックスなので、中国4000年の権謀術数により陥れられたんだろうか、などと考えていた。そしたら薄さんの奥さんまで殺人罪で執行猶予付き死刑判決!
 で、この本では薄さんの妻・谷開来(こくかいらい)の悪女ぶりがたっぷり書かれています。いやもう、中国には何があっても驚かない構えはできておりますが、こうまで「革命の国でえらくなった人びと」が下世話だと衝撃ですよ。
 登場人物の親は党の要人でありながら政治闘争に敗れて地方に飛ばされツライ目に遭い、しかし名誉回復で都会に出てきて、また野望と努力で地位を上り……って、あら? なんだか立志伝中の人みたい。そこに「肉体関係」や「不倫」や「三角関係」や「整形」や「銭ゲバぶり」などをふりかけることにより、立志伝がいきなり韓流ドラマ、いや中華ドラマに。これを読ませれば、谷開来が相当な奴と思わせるのは簡単であろう。
 他にも、中国要人の奥さんたちがジャーナリストによって紹介されます。だいたいが「女を武器として中国共産党のエライ男を籠絡(ろうらく)→でも男はすぐ他の美人へ→女としての寂しさをまぎらわすため政治にのめりこむ」という図式で、多くの“悪女”が量産される中、とくに江青女史のスゴ者ぶりはきわだっている。
 嫉妬深さと復讐心。嫉妬は自分もたいへんに深いので、劉少奇(りゅうしょうき)の奥さんである王光美の美貌を憎んだ江青の気持ちはよくわかる。こっちはただメラメラするだけで力がないから復讐できないが、私の夫が毛沢東だったらばんばんやっただろう。無力の夫でよかった。
 でもさ、ことさらに悪女ばっかりあげつらわなくてもいいんじゃないの? 中国なんかもっと悪い男は山ほどいるぞ。だって、この本の悪女はほんとに「浅はかな女」っぽくて、オッサンが読んで溜飲下げそう。

週刊朝日 2014年1月17日号