最近、金箔が気になっている。日本の金箔の99%(ほぼ100%?)は金沢で作られていると言われる。前に石川県を旅したときも工房を訪れたいと思っていたのだがタイミングが合わず、結局見ることができなかった。そんなこともあり、「金沢・世界工芸トリエンナーレ」に出かけた今回、金箔の工房を見学することにした。
「金箔が、大陸からいつごろ日本に伝わったのか、詳しいことは明らかではありませんが、古くから多くの文化遺産に使われてきました。17世紀末には、幕府が統制を行い、金箔を作れるのは江戸と京都だけになりました。現在の日本橋には金座、銀座と並んで箔座があったそうです。その後、明治維新とともに統制が解除されましたが、現在金箔を作っているのは金沢だけです」(高岡製箔・高岡昇社長)
和紙、木工、漆、陶器、金糸、仏具……日本の伝統文化は金箔を抜きに語ることができない。多くの寺社仏閣も金箔を使っている。
金箔作りは、とても繊細な作業だ。金地を叩きながら極限まで延ばしていくのだが、その薄さは1万分の1〜2ミリ。このとき重要になるのが、箔を叩くときに一枚ずつ挟むための和紙「箔打紙」だ。
「金沢で金箔作りが盛んになったのは、さまざまな要因がありますが、和紙を箔打紙に育てる仕込みにおいて、気候と水質が適していたことが挙げられます。箔打紙はワラの灰汁などに浸け込んで仕込みますが、この紙仕込みがもっとも重要な作業で職人の腕の見せどころ。金箔の仕上がりの8〜9割はこの紙仕込みで決まる。いい箔打紙に仕上がれば、艶のある美しい金箔になります」
紙と金地を交互にはさみ、電話帳のような厚さにしたものをひたすら均等に叩く。これが“金沢伝統箔(縁付)”を作るための作業だ。少しだけ体験させてもらったが、かなりの強さで機械が紙を押し叩く。この衝撃に耐えるのだから、相当紙が強いのだろう。腕のある職人が仕上げた箔打紙なら、20回ほど仕込み直して使えるという。
ちなみに現在、叩く作業は機械で行っているが、当然昔は手作業。それでも伝統的な手法にこだわる清水寺などの寺社仏閣から、「手打ちの金箔が欲しい」という注文が入ることもあるのだという。
出来上がった金箔は、1枚ずつ電話帳のページをめくるようにチェックする。とにかく薄く軽いので、室内の空気を動かすのは厳禁。真夏でも真冬でもエアコンは使えない。そんななかで繊細な金箔を扱う集中力は、大変なものだろう。
多くの伝統工芸と同じように金箔の需要自体は減っている。そんななか、高岡製箔は、工房の隣に「箔座」というショップを開き、金箔の可能性を探っている。店内には総金箔の茶室があるほか、金箔を使ったアクセサリーや金箔入りの焼酎やケーキ、化粧品など、さまざまな金箔グッズが並んでいる。料理にも使うことができるそうで、中には割り箸を割ると、金箔が料理の上にはらはらっと落ちるようなアイデア商品もあった。出されたお茶にも金箔が浮かんでいた。
「味も何もしませんから、気にしないで飲んでください(笑)」
僕は真新しい金箔のピカピカした感じも好きだが、少し時間がたって、剥げかけてかすれたような風合いに魅力を感じる。200年、300年経ったような琳派のような表現が今の時代にできたら非常に面白いのではないだろうか。それこそ日本ならではのアートになり得る気がする。
しかし、それも素晴らしい職人がいてこそ。伝統の技で金箔を作れる職人はどんどん減ってきているそうだが、高岡製箔ではなんとか次世代にその技術を伝えようと、若い世代の育成にも力を入れている。しかし、職人を増やすためには、その工芸品を使う文化を育てていかなければならない。文化は職人が創るのでは無く、それを使う我々が創るモノ。今なくなりつつある文化の価値を再認識し、現代の文化として新たに作り変えて行きたいと、箔作りを見ながらさらに強く思った。