「AV女優」と呼ばれる人々を、当事者の視点に寄り添って取り上げた研究書である。1983年生まれ、AVスカウトマンのたむろする街で学生生活を過ごした著者は、これまでのアカデミズムの性産業論は当事者の現実にもとづいていないと一蹴する。業界内に潜り込み、AV女優との交流を通じて著者は「AV女優像」の形成過程を明らかにする。プロダクション面接などを通じ、女優たちは特定の女性像を演じることを学ぶ。さらにインタビューなどでの自己語りを繰り返し、そうした像は自身にも内面化されてゆく。
 しかしながら女優像を単に「つくられたもの」と片づけるのは誤りである。ある女優は「AV女優だからこれくらいのエンタテインメントしかつくれないって思われたくないから、演技でもなんでも本気でやる」と語る。自己演出はその実、AV女優たちの逞しさを形成する糧でもあるのだ。
 AV産業の構造、単体女優と企画女優の違いなど、業界の具体的な事情から出発して丹念な説明がなされている。現場からのたしかな説得力を感じる一冊だ。

週刊朝日 2013年8月30日号