〈治る病気は簡単ですよ。治らない病気だからこそ、しなきゃならんことがいっぱいあるわけでしょう?〉
 水俣病患者の絶大な信頼を受けていた医師、原田正純さんの対話集。原田さんは本大学の大学院生のとき「胎児性水俣病」を発表した。50余年にわたり水俣病患者を診続け、さらには、カネミ油症、三井三池炭鉱CO中毒の患者の強い味方でもあった。
 自分も食道がん、悪性リンパ腫などと闘ってきたが、2011年秋に「骨髄異形成症候群」と判明、死を覚悟した。15人と朝日新聞西部社会面で対談したのが本書で、『苦海浄土(くがいじょうど)』の石牟礼(いしむれ)道子さん、チッソや国と闘い続けた患者、患者の思いを引き継ぐ2世、記者、医師、法律家などが登場する。
〈認定をしたら、そのままほったらかして、「問題は終わった」と。終わっちゃおらん。患者の症状は進行しているわけです〉
 原田さんは2012年6月に77歳で亡くなった。患者や被害者、住民たちが主役の「水俣学」の提唱者で、“遺言”はそのあるべき道を示している。

週刊朝日 2013年7月5日号