絵は見りゃわかる。絵なんだから。といっても、大きさに限りのあるキャンバス(なり画仙紙なり壁なり)にすべてを描き尽くすことはできない。宗教画など、無理やり「すべて描いちゃってる」ためにワケわからなくなってることもあり、そういうものの「絵解き」をした本です。「これはこういうことを描こうとしているのですよ」と教わって納得したり、思いもかけぬ意味に感動したり、逆に「案外深みがないな」とガックリしたり、とにかく楽しめる。
絵画には、そのような「見てもらうことを目的に描いた主題が各種理由でわかってもらえない」ことがよくある。それと同時に「描いたつもりはないことがいろいろな調べにより暴かれる」というのもある。本書のタイトルは『欲望の美術史』となっていて、絵画の裏側にある人間関係や現象などを教えてくれる本であった。“見えないものを暴く”ほうである。美術や芸術よりも、それを創造した人に光を当てる。
ぜんぶで28個のテーマに沿って、絵や彫刻とその裏側にあるものを紹介している。すいすい読めて、知識も得られて、おまけにそれが裏話的なものなので頭に入りやすく覚えやすく、読み終わった時に「ああ、本を読んでトクをした」という気持ちになれます。ダレソレのあの絵のモデルは作者の不倫の恋人だった、とか。老女がキリストの絵を勝手に修復と称して上描きして、猿のような顔になっちゃったスペインの事件などから、人々の「名画や権威的な画像を茶化したいという欲望」に目を移す。そしてマネやピカソの有名な絵の「元ネタ」を教えてくれた上に、そういうパロディっぽい絵画を描いた作者の隠れた感情を解説してくれる。
いろいろな絵とその裏側について書いてある中で、私は「風景画は政治的なものであり、愛国心と結びついている」というのが、なんだかハッとさせられた。権力者の肖像画ってのも政治的なものだが、どうも私には風景画のほうがコワイのである。
週刊朝日 2013年6月28日号