「僕は日本武道館でビートルズを見た、生き残りのひとりである」と記す著者は、ロック雑誌「ロッキング・オン」の創刊メンバーであり、元プロ・ミュージシャン(これが肝心)の作家だ。本書は、ビートルズを音楽の「北極星」と位置付ける著者が、そのアルバム14枚を、自らの青春を織りこみ語ったもの。上質の文章。鵜呑みにしてよいデータ&エピソード。マニアから小学生までが楽しめる読み物となっているが、当時ビートルズに無知無理解な輩共への「怨念」は深く、ときに古傷(ページ)から血が噴きだす──「しかし、僕達は負けなかったのだ」。それだけビートルズが著者の思春期の「肉と霊」だからだろう。
 著者は、ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンにインタビューした際、「僕の父はギャング・スターで、僕もそうなっていたかも知れません。だけど、ビートルズを聴いて、拳銃を撃つよりもギターを弾くほうが素晴らしいということを知りました」と語る。そのウエットでいて「すっとぼけた」表現こそが、まさにビートルズ流だ。

週刊朝日 2013年1月4-11日新春合併号

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