夏風邪をひいてしまった。お腹の風邪らしく、胃が重だるく、起き上がることができない。ただただお腹をおさえて寝ているしかできなかった。
私が寝込むなんて1年以上ぶりで、昼過ぎに学校から戻った息子は珍しがった。ごはんを作ることができないとお金を渡すと、コンビニで私の分の冷やしうどんも買ってきてくれた。けれど、せっかく息子が差し出してくれたうどんも、口にすることもできない。イオン飲料を流し込むのが精一杯だった。
こういう時は、我が家は梅醤番茶というものを飲む。梅と醤油のエキスが入った1850円のビンを冷蔵庫に常備してあり、それにお茶を注ぐ。飲むと内臓がシャキーンと締まり、元気になるのだ。
私はよろよろとビンを取り出したが、なんとそれは賞味期限を大分過ぎている。これは隣の駅にしか売っていない。
おつかいを頼むと息子は途端に顔をしかめた。友達と約束しているという。
「さっき、うどん買ってきてやったじゃないか!」
そう叫んだところで娘が帰ってきた。あとは頼んだと言い捨て息子は出かけていってしまった。
おのれ......、と、ごろごろするお腹を抱えて私は恨んだ。この体調では隣の駅まで行くのは難しい。その様子を見かねて娘が「私が行くよ」と声をかけた。
もう6年生とはいえ、ひとりで隣駅までおつかいに行かせるなんて初めてだったけれど、彼女にすがるしかない。そしてしばらくして娘の携帯から連絡が入った。
「売り切れてるよ~」
ああ......同じ症状の人が大勢いるのだろうか、としょげたけれど、娘は別の店にまで足を伸ばし、なんとか梅醤を手に入れて戻ってきてくれた。この時ほど娘を頼もしく思ったことはない。
娘がお茶も入れてくれ、それを口にしてやっとどうにか起きて作業できるようになった夜になって、そうっと息子が戻ってきた。彼はパジャマ姿の私を横目で見ながら、
「売り切れてたよ」
とだけ言った。彼なりに心配してくれていたらしい。そして娘が誇らしげにビンを見せびらかし、そこからはいつものように賑やかな家族の会話になったのだった。