先日、8分間だけの映画があると知って、どうしても観たくなった。365日、毎・10時に上映している「岸辺のふたり」というフランスのアニメーションがあるというのだ。料金は500円。
私は26歳の男の子と映画館前に9時50分に待ち合わせたのだけど、なんと朝に弱い彼は遅刻してきた。
「ごめんごめん」
彼が走って現れたのは10時ちょうどで、私は泣きそうになった。これが2時間以上ある映画ならまだいいが、たったの8分なのだ。ちょっと遅れただけで取り返しのつかないことになってしまう。彼の頭からはシャンプーらしきいい匂いがした。頭洗ってるヒマがあったらさっさと来んかい、となじりたくなるのを私はガマンした。
さらに映画館に入った私たちに次の難関が待ち受けていた。他の映画を観ようとしている人たちがずらりと窓口に列を作っていたのである。その数、20人以上。
「もう絶対ムリだ。チケット買っている間に映画が終わってしまう......」
私は肩を落とした。しかしそのとき、映画館の人が「岸辺のふたり」ご鑑賞のかたはこちらにどうぞ、と声をかけてくださり、私たちはなんとか優先的にチケットを得て、真っ暗な室内に忍び込めた。
しかし、映画はすでに始まっていて、画面にはアニメーションが流れていた。
ああ、間に合わなかった、とがっくりしたが、なんだか事前に聞いていた少女が出てくるせつなげなアニメとは違うアートな作品で、あれ? と気づいた。
そうだった、本編の前に、3分間の超短編アニメが併映されると言ってたっけ......。
ほ?っとため息をついたところで、やっと目指していた「岸辺のふたり」が始まった。そしてこれが、たった8分とは思えないほどの、人生が凝縮されたような素晴らしい映画で、私は大満足だった。
それにしても、ちかごろミニマムなものが流行しかけている気がする。私自身もtwitterというサイトで140字というミニマム小説に挑戦しているが、2ヶ月で6000編を超える投稿が集まっているほど盛り上がっているし。
そうそう、意外だったのは一緒に観た若い彼の反応だった。いつまでも「はあ、今の映画、せつなくてよかったぁ......」と私以上にうっとりしていたのだ。彼のオトメンな一面も見れて、ますます楽しい時間だった。でも今度は遅刻しないでよね!