ウクライナ戦争が始まってから1年が経った。なぜ長引いているのか。元外交官の東郷和彦さんと慶應義塾大学教授の廣瀬陽子さん。ロシアに詳しい2人が意見を交わした。AERA 2023年3月13日号の記事を紹介する。
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東郷:ウクライナ戦争が、こんなに長くなるとは思っていませんでした。私は一日も早く戦争を終わらせなければならないと考えていますが、事態は逆行し、終わりが見えないステージになだれ込んでいる。日々、胸が張り裂けるような思いでいます。
廣瀬:そうですね。私はそもそも戦争が始まるとも思っていませんでしたから、この1年は驚きの連続でした。当初、この戦争は非常に短期で終わるか、長期化するか、どちらであるか見極めができなかったのですが、1カ月経った時点で長期化するだろうと思うようになりました。そして、欧米が兵器の供与を始めてからは、長引けば長引くほどウクライナが得だと考えていました。各国から永遠に支援が続くウクライナに対し、ロシアは原油輸出による収入のみで、経済制裁によって輸入ができなくなるので先細っていくだろう、と。でも、今は逆に、長引くほどロシアが得をするように感じています。
東郷:ロシアが徐々に弱くなっていくのが多数説だけれど、戦い続けることができる、ということですね。
廣瀬:はい。現在のロシアは制裁で欧米からの輸入はできないけれど、並行輸入で欧米の製品も入手できていますし、代替物も充実してロシア人に不満はないようです。また、国内では兵器を製造できないとされてきましたが、最近はできるようになってもいる。白物家電を並行輸入して、その半導体や電子チップを抜き取って戦車の補修にも使っているようです。
さらに見逃せないのは、イランとの軍事協力で、ロシアはすでにドローンを買い取っています。もともとイラン製のドローンは寒すぎる場所では飛ぶことができませんでしたが、ロシアの技術によって真冬でも飛べるように改良されたようです。イランはこれまで核開発問題などで、世界最高レベルの制裁を受けてきた国です。そんな「先輩」から制裁下を生き抜く術が共有され、兵器の損耗はいくらでも補うことができるようになった。そんなことからも意外とロシアはしぶといんではないか、と思うようになりました。