「今まで頑張ったね」と、褒めてあげました。脳腫瘍とわかってから1年3カ月。13歳でした。

 先生から病気が進行して“てんかん”が起きたら「安楽死も視野に」と言われて心配していたので……それも回避できて、自分にとって理想ともいえる看取りの瞬間でした。

20歳まで生きると思っていたけれど……
20歳まで生きると思っていたけれど……

 荼毘(だび)に付したのは翌日です。

 初代トラは霊園に託しましたが、トラは移動火葬車にお願いすることにしました。家の前の私道に来てもらうことにしたのです。以前、遺骨が(犬とと)すり替わっていた業者の事件があったので、自分の目で見届けたいと思い、前から候補を決めていたのです。

 こう話すと、最後まで冷静だと思われるかもしれませんが、そんなことはないんです。火葬車を頼む間際に「電話をしたらこれでお別れなんだ!」と動揺し、「生き返るかも」と思ったり……。自分を落ち着かせ、保冷剤をトラの体に当て、翌日を待ちました。

■じゃあまたね、トラ

 くしくも13日は盆の入り。火葬の係の方も、「こんなお盆ぴったりにお迎えが来るのは、なかなかない」とおっしゃっていました。もしかして、先代トラが“きゅうりの馬”に乗ってきて、トラと“ナスの牛”に乗って仲良く空に帰ろうと思ったのでしょうか。

 その日は台風が接近して朝から雨でしたが、不思議なことに、午後、火葬車が付く前にその雨がぱっと上がりました。

 車の煙突から出るのは無臭の水蒸気なのですが、ユラユラとゆらめいて昇っていく陽炎を見ていたら、その中で笑うトラの顔が見えたような気がしました。

 私もほほ笑み、じゃあまたね、と手を振りました。

帽子をかぶったトラちゃん
帽子をかぶったトラちゃん

 治療も介護もその都度迫られる選択肢があり、どれが正解かわかりません。でも私は、「選択は間違っていなかった。トラにもこれが一番の選択だった」と今も信じています。

 トラの姿はもう見えないけれど、今度は自分の中に生きてくれる。その幸せは、一生ものです。コロナで寄り添えたこと、苦しまずに逝ったこと、陽炎の中で笑って見えたこと。その全てが、トラからの感謝の贈り物だったように思えてなりません。

 ありがと、トラ!ずっと笑っていられるよ。

ヒマワリが似合うトラ。じゃあ、またね
ヒマワリが似合うトラ。じゃあ、またね

(水野マルコ)

【猫と飼い主さん募集】
「猫をたずねて三千里」は猫好きの読者とともに作り上げる連載です。編集部と一緒にあなたの飼い猫のストーリーを紡ぎませんか? 2匹の猫のお母さんでもある、ペット取材歴25年の水野マルコ記者が飼い主さんから話を聞いて、飼い主さんの目線で、猫との出会いから今までの物語をつづります。虹の橋を渡った子のお話も大歓迎です。ぜひ、あなたと猫の物語を教えてください。記事中、飼い主さんの名前は仮名でもOKです。飼い猫の簡単な紹介、お住まいの地域(都道府県)とともにこちらにご連絡ください。nekosanzenri@asahi.com

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