元陸上自衛官の五ノ井里奈さん(23)が、在職中に男性隊員から受けた性被害について、防衛省が事実を認め、ようやく加害隊員らが謝罪することが決まった。究極の男性社会ともいえる組織の自衛隊で起きた性被害。この問題をどう見るか。防衛大卒で、『防大女子』の著書がある松田小牧さんに聞いた。
――先月29日、陸自トップの吉田圭秀陸上幕僚長が「長らく苦痛を受けられている五ノ井さんに対し、陸上自衛隊を代表して深く謝罪申し上げます」と陳謝しました。あの場面を率直にどう感じましたか。
大前提として、自衛隊において性的暴行に近いような性加害があってはなりません。複数の男性隊員に囲まれた五ノ井さんが受けた苦痛は、いかばかりか。泣き寝入りせず、行動を起こした五ノ井さんには、最大限の敬意を表したいと思います。
さて、自衛隊関係者に話を聞くと、五ノ井さんの告発によって問題が表面化する前から、吉田陸幕長はハラスメント対策を進めようとはしていたようです。自らも講習に出席するなど、高い問題意識を持っていました。
こうしたことからも、今回の吉田陸幕長の謝罪は、ただのパフォーマンスではなく、じくじたる思いだったのではないかと、みています。これまでの幕僚長だったら、ここまで早くはなかったかもしれません。
――五ノ井さんが受けた性被害について、現役の自衛隊員たちはどう受け止めているのでしょうか。
五ノ井さんが警務隊に被害届を出して不起訴になりましたが、その後に被害の事実が認められたことは、極めて深刻な事態です。しかし、自衛隊の体質は「変わらない」とみている人は少なくありません。過去にも似たような事案があっても変わりませんでしたし、「五ノ井さんが受けたほどの被害の事案はない」とか「ハラスメントに敏感な時代にリスクのあることはしない」、「俺たちは恥じることを何もしていない」という声があります。
震えているのは、上層部や五ノ井さんのいた郡山駐屯地(福島県)などのごく一部であって、その他の多くの自衛官は「あってはならないこと」と思いながらもどこか他人事のように受け止めているのが実態だと思います。ハラスメントの被害実態を調べる特別防衛監察が始動しましたが、最終的な結論が効力を持ち、状況が改善されるのかどうかは半信半疑です。