――組織全体がハラスメント体質というよりは、場所によって差があるということでしょうか。

 職種や部隊にもよると思います。自衛隊は上意下達の縦社会であり、情報を外に漏らしてはいけない閉鎖的な組織。加えて、五ノ井さんが配属されていた陸自の戦闘職種は、どうしても体力面から男性優位になってしまうし、男性主体の自衛隊の中でも特に女性が少ない現状があります。

 こうした環境ではハラスメントが起こりやすいと言えます。一方、通信などの後方職種で比較的女性が多いところだと、むしろ女性の方が強いところもあると思います。男性隊員に対して「おまえ男だろ」と言ってしまう女性隊員はいます。

――五ノ井さんの性被害については、男性隊員が口止めをしたり、中隊長が大隊長に報告を怠っていたりしたことも確認されています。こうしたハラスメントにおける負の連鎖を防ぐためにはどうすればいいでしょう。

 女性には触ってはいけないとか、やってはいけないことのネガティブリストを作って縛ればいいというものではないと思います。「これだから女は面倒だ」という風潮になりかねません。

 今回の五ノ井さんの件では、女性が人として尊重されていませんでしたよね。ハラスメントの前に、自衛官の任務は国防であることを再認識するべきです。命にかかわる危険な任務に就くことを想定している組織において、最も重要なのは信頼関係です。

 男女関係なく、一人ひとりの人間性を確認しながら信頼関係を構築していくようにすることが、一番のハラスメント防止につながるのではないでしょうか。

――そうした上司になるために求められるのは、どんな資質でしょうか。

 相談を受けた上司には、被害者に寄り添う傾聴力が求められます。

 自衛隊にありがちなのは、上司が、被害を受けた隊員に対し、「あいつに悪気はなかったんだ」とか「あいつの将来を思って我慢してくれ」と言ってしまうことです。隊員が家族のように大事だからこそ、何かと穏便に対処しようとしてしまうのです。しかし、これは間違っています。

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自衛隊の論理では本人が謝罪したいと言ってもすぐにはできない