このままでは、自衛隊に相談しても聞いてもらえないからと、外に訴える人が増えていくかもしれません。過ちを犯してしまった隊員に対しては、しっかりと罰を受けさせ、間違いを悔い改めるように正すことが大切です。
被害の相談をする隊員に対しては、ちゃんと聞いて対処してくれるんだという、安心感を与える上司になる必要があります。その結果、組織全体がそうなっていくことが求められます。
――五ノ井さんは一貫して、加害者の男性隊員からの直接の謝罪を求めてきました。今回、ようやく実現する運びになりましたが、それほど時間がかかることなのでしょうか。
一般的な心情からすると、加害者が早く謝罪するべきだと思うかもしれませんが、自衛隊の論理からすると、加害者が謝罪をしたいと言ってもすぐにさせられるわけではないです。いろいろな調整や、加害者本人に対してもどう謝罪すべきかといった指導があったはずです。むしろ世間の風が後押ししたおかげで少し早まったとみられます。
――五ノ井さんは、実名・顔出しで訴えたことで、同じように被害にあった人が声を上げやすくなった一方、誹謗(ひぼう)中傷などの二次被害も受けています。
性被害にあっただけでもトラウマを抱えると思います。その上に実名と顔をさらすことは、どれほど覚悟のいることか。匿名で誹謗中傷している人には、その重みが伝わっていないのでしょう。
自衛隊は、五ノ井さんのようにYouTubeやSNSを使って告発する人がまた出てくることを恐れているはずです。自衛隊を攻撃する口実を野党に与えてしまったという見方もあるでしょうから、それによって「自衛隊の名誉を汚した」とののしる人も出てくるんです。
――松田さんも実名で『防大女子』を出版されましたが、影響はありましたか。
私は『防大女子』を出した時に、「自衛隊とは何たるかをわかっていない」とか「自衛隊に順応できなかった憂さ晴らしをしているだけだ」などとネットに書き込まれました。その後顔を出すと、容姿を非難する声もありました。誹謗中傷する人は、ご自分もまずは顔と実名を出してから言ってほしい。
直接顔を合わせないネット社会において、誹謗中傷は避けられないですが、それがどれだけ人の心を傷つけるのかを想像してみてほしいです。
(聞き手/AERA dot.編集部 岩下明日香)
松田小牧(まつだ・こまき)/1987年生まれ。2011年に防衛大学校卒。陸上自衛隊幹部候補生学校を中途退校。2012年に時事通信社に入社し、18年に退社。著書に『防大女子』(2021年)。現在はフリーランスのライターとして執筆活動を行う。