作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、ドイツ滞在で感じた世界の「今」について。
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先日、ほぼ3年ぶりに日本を出た。ドイツのハノーバーという街で、「eroFame」という世界最大規模のセックストイの商業市に参加したのだ。
久しぶりに機上で日付が変わる体験を楽しんだり、文字通り窓に張り付き雲の写真を撮ったり、様々な国からやってくる同業者たちとの3年ぶりの再会に胸躍る数日間だったが、それでも街をゆっくり歩けば、今までにないヨーロッパがあるのだと実感する。
短い滞在期間だったため、観光は一切せずにひたすら商談だけをしていたのだけど、それでも見える景色、交わされる会話はこれまでとは随分違っていた。
ハノーバーは歴史的建造物と自然にあふれる中堅都市で、経済的にも安定している都市といわれている。そのハノーバーで、かつてないほど家を失った人々を見かけた。これまで10回ほどハノーバーを訪れてきたが、これほど多くのホームレスを見るのは初めてだった。他の都市に暮らす友人に「前からこんなだった?」と聞いたら、「久しぶりにハノーバーに来たけど驚いた。実際に増えているのだと思う」と厳しい口調で教えてくれた。ホームレスだけではない。街の広場には居場所がないスラブ系の難民が何十人も昼間から時間を潰していた。ドイツの10月は夜にもなればかなり冷え込むが、毛布を頭までかぶり冷たいコンクリートに横たわっている人を何人も見かけた。
「困窮」が街を支配しているのを肌で感じながら歩いていると、大通りを外れ路地に入ったとたん、ピンクのネオンの看板の建物が並び、まだ午前中だったが、アフリカ系の女性たちがガラス窓越しに下着姿で座って化粧をしているのが目に入った。ドイツが性売買を合法化して久しいが、性産業に就く女性たちは結局、東欧やアフリカ系の女性たちという現実が、やはりある。どの店も入り口には「KONDOMPFLICHT」と印刷した紙が貼られていた。コンドーム着用義務、という意味で、2017年に施行された法律で国が全ての性産業従事者と客に義務づけたものだという。