靴やゴミ、しわくちゃになったハロウィーンカボチャ、そして血なまぐさいにおい……。韓国・ソウルの梨泰院は、変わり果てた姿になっていた。大惨事から数日経った現場から、新型コロナの感染拡大前からハロウィーンに参加してきた、現地の記者が報告する。
【写真】地下鉄・梨泰院駅の1番出口に設けられた追悼場所に手向けられた多くの花
「無能な公務員と愚かな若者が生み出した恐ろしい死だ」
10月29日に起きた梨泰院のハロウィーンフェスティバルの大惨事について、筆者と旧知の仲であるソウル市の公務員は、そう言い放った。
責任は、梨泰院エリアを担当する公務員とイベントに参加したある一部の若者たちにあるというのだ。
筆者はコロナ禍前の2018、19年、梨泰院のハロウィーンフェスティバルに参加している。今回の事故の映像や写真を見て、「ここは本当に梨泰院なのか」と言葉を失った。
今回は、以前とは比較できないほどの人が集まっていた。イベントが行われるクラブや飲食店、カフェは梨泰院エリアに散在している。今回のような人波は過去のどのハロウィーンでも見られなかった。
警察は、梨泰院に約10万人が集まると予想していたというが、実際は、梨泰院駅で降りた当日の利用客は約13万人だった。車や徒歩で訪れた人まで合わせると、さらに多い数になる。
それに対し、警察と自治体、公務員が迅速な措置を講じなかった。梨泰院に人が流入しないよう、地下鉄を通過させる方法もあったはずだが、事故発生1時間後まで地下鉄は梨泰院駅に停車していた。
車の通行規制も指摘されている。梨泰院は丁字路になっていて、この道路で街が分断されている。梨泰院では世界各国の食べ物や特産物を販売し、音楽・ダンス公演を行う「地球村祭り」を毎年開いていた。19年に筆者がこのイベントに参加したときは、道路全区域を閉鎖し、歩行者天国にしていた。
今回のハロウィーンイベントではそのような措置もなかったため、事故が起きる確率は高まっていたのだろう。事故発生直前まで梨泰院の大通りはバスや車で渋滞していて、事故後に警察や救急車が通れなかった。警察と行政が道路を閉鎖したのは、大惨事が発生した後になってからだ。